時には風になって、花になって。
妖怪だと知っている。
鬼であることも知っている。
それなのにサヤは私を“紅覇”という存在として見てくれていた。
「きっと私とウタがお互いに求めていたものも、そんなものだったんだろうな」
人間も妖怪もどうだっていい。
そんなものに縛られない存在として、“私”として見て欲しかっただけなのだと。
「…ウタ、お前は間違っていた」
お前は変わった女で。
楽観的なのに本心は誰にも見せないような女。
だからかつての私も今の私も、お前の全てを理解しているのかと問われれば、どうしたって首を縦には振れない。
「人間も妖怪も何ひとつ変わらぬ。この世で生まれ、この世で生き、命あるものとして成長する」
その両方を知っているのはあの娘だ。
人間としても妖怪としても、サヤはそのどちらの心も持っている。
それでも寿命が長い妖怪より、短い人間を選んだ。
すぐ怪我をするような、そして簡単なことで生死を跨ぐような儚い命だとしても。
それでもサヤは人の道を選んだ。
「…妖怪も言うほど悪くは無い。私はそれをお前の娘から教えてもらったんだ」