時には風になって、花になって。




風になり花になり。

それでも私の傍に生きていると言ってくれた。


───そのとき。



「っ…!!」



それは幻か現実か。

淡い光を纏った存在が男を包み込んだ。



“───紅覇”



その声は幾千の時を越えて、かつて男が恋い焦がれ愛した声であった。



「…居るのか、そこに」



見えない。

けれど、感じる。



“ええ、いるわ”



紅覇はそっと瞳を閉じる。

その中でかつて愛した女を浮かべると、彼女は優しく青年の頬に手を当てた。



“…もういいの、紅覇。これ以上過去に、私に縛られる必要なんてない”


「ウタ、私はお前が───」


“わかっているのよ。それにあの子はやっぱり私の娘ね。私もあの日、同じことを紅覇に伝えたかったの”



あなたに好きだと伝えて、それでもお別れをするつもりだった。

けれど離れていてもお別れなんかないんだって。


私はあなたに───…



“ウタは何処にでも、どんな場所にだって存在する。
2人で話した木の上にも、一緒に眺めた空にも、あなたの髪についた葉にも、ね”



< 158 / 180 >

この作品をシェア

pagetop