時には風になって、花になって。
風になり花になり。
それでも私の傍に生きていると言ってくれた。
───そのとき。
「っ…!!」
それは幻か現実か。
淡い光を纏った存在が男を包み込んだ。
“───紅覇”
その声は幾千の時を越えて、かつて男が恋い焦がれ愛した声であった。
「…居るのか、そこに」
見えない。
けれど、感じる。
“ええ、いるわ”
紅覇はそっと瞳を閉じる。
その中でかつて愛した女を浮かべると、彼女は優しく青年の頬に手を当てた。
“…もういいの、紅覇。これ以上過去に、私に縛られる必要なんてない”
「ウタ、私はお前が───」
“わかっているのよ。それにあの子はやっぱり私の娘ね。私もあの日、同じことを紅覇に伝えたかったの”
あなたに好きだと伝えて、それでもお別れをするつもりだった。
けれど離れていてもお別れなんかないんだって。
私はあなたに───…
“ウタは何処にでも、どんな場所にだって存在する。
2人で話した木の上にも、一緒に眺めた空にも、あなたの髪についた葉にも、ね”