時には風になって、花になって。
そう伝えたかったの───ウタはかつての青年が大好きだった顔で微笑んだ。
悪戯でズル賢くて、それでいて活発で。
“私も───あなたを心から愛していたわ”
ウタ、私はこれだけは言える。
もしお前があのとき、人間ではなく本来の姿で私の前に現れていたとしても。
私はお前に惚れていただろう───と。
「…お前に出会えて良かった」
涙が頬を伝った。
それはずっと伝えられなかった想いがやっと届いた喜びか。
それともそうでもない、もっともっと温かなものか。
“娘を泣かせたら承知しないんだからね、紅覇!”
「ふっ、心得ている」
紅覇も最後にウタが大好きだった顔を見せた。
フワッと、目映い光が青年の涙を拭う。
そんな泣いてる暇なんかないでしょっ!と、変わらない生意気な女が背中を押してくれたような気がして。
「サヤ、…我が名を呼べ」
私も時には風になろう。
そして花にもなろう。
「お前が呼ぶのなら…
私は何処へだって駆け付けよう───…」
男は力強く地面を蹴った。
*