時には風になって、花になって。
そんな言葉が止まったと同時に、男が手にしていた盃がパリンッと割れた。
止まったのは、そんな現象に驚いたからではなく。
「な、なんだ!?」
オレがそれをする必要がないと悟ったからだった。
畳に酒が飛び散る。
そしてざわめきがだんだんにして広まる。
まるで天から舞い降りた菩薩、というよりは。
「───女を奪いに参った。」
天から炎と共に降り立った盗賊だ。
悪魔のような、鬼のような。
それでいて整った唇の端を上げて、真紅の髪を揺らして。
銀色の狩衣はこの場にいる誰よりも似合ってしまっているものだから。
「お前は何者だ…ッ!妖怪か…!?」
そんな男など華麗に無視をして。
見た目の若き青年は人間には持たぬ透明感と雰囲気を身に纏って、部屋へ上がってくる。
そして妖艶な男は、その存在の前に立った。
「…………え………オレ………?」
紅覇さんが見下ろす先にはオレが居た。
何故……オレ……?
え、違くね?
それは違うよ紅覇さん。
それだともう色々おかしくなっちゃうから。