時には風になって、花になって。
サヤは何も答えない。
答えないのに、紅覇は会話を続けている。
サヤは今回も今までも、どの縁談に対しても文句など言ったことがなかった。
笑顔で答えて破談になっても笑っていた。
「…それでも…私の傍にいてくれるか」
紅覇はコツンと、サヤの額へ合わせた。
とても優しく、甘い声だ。
するとサヤは震える腕をゆっくりと動かして、首元にかかる1つの笛を口元まで運んだ。
それはあいつがずっと付けていたもの。
なにかあればピーピーと吹いていたもの。
ピ…~~……ー…、
その音は今まで聞いた何よりも弱々しくて途切れ途切れで。
吹けている、とは到底言えない程。
「…二言はないな?」
サヤはもう1度、弱々しく答えた。
「わかった」
───ふわっ。
まるで何よりも大切なお姫様を抱き抱えるように。
両手でしっかりと支えて、空へと舞い上がってゆく2人。
「おいっ!!お前っ!!なにをしているんだ…!!!」
そんなとき、新郎である男は我慢の緒が切れたように宙に浮く紅覇を追いかけた。