時には風になって、花になって。
気を失う娘を右手に抱えながら、紅覇は闇を抜けた。
とうとうここまで追ってきたか…
『なぜ貴方は人を殺すのです…!』
『くだらんことを。お前は一族の恥だ』
羅生門(らしょうもん)───それは鬼一族の頂点に君臨する我が父にして最強の存在。
そんな父と息子は一生解りあえぬ間柄でもあった。
人を殺すことを生業とする羅生門と、それを嫌う紅覇。
『あんたが紅覇?ふーん、鬼って言っても大したこと無いんでしょ?』
駆け巡る記憶の中で咲く一輪の花。
何百前かの記憶、その中で己の名を呼んで笑う女は確かに“人”だった。
『そーんな仏頂面してるから人間が寄って来ないのよ。
あぁ、寄って来るとすれば私みたいな物好きな子ね』
生意気な娘だった。
目を離せば消えてしまうような、そんな女。
それでも人間という存在と話してみたい。
まだ鬼としての生を長くは生きていなかった青年にとっては、全てが新鮮なものだった。
『必ずここで待ってて!次会ったとき、あなたに伝えたいことがあるの!』