時には風になって、花になって。




太陽に翳された葉っぱから射し込む光。

そよそよと吹き抜ける風、駆け抜ける度に通り抜ける鳥たちの囀り。


広大な大地、輝く自然。


全てが美しく見えた。



(紅覇が、いる)



紅覇がいま目の前にいて、サヤを抱えてくれている。

離さぬように両腕でしっかりと。


その片腕は彼の前を去る前日の夜にサヤが見つけたものだった。



(紅覇、くれは、)



ずっと少女は呼んでいた。

言葉に出せなくたって、笛に思いを乗せることが出来なくたって。


それでもずっと呼んでいた。



「案ずるな。もう離すつもりはない」



どうして戻ってきたの?とか。

どうしてあんな言葉を言ってくれたの?とか。

たくさん聞きたいことがあったけれど、それでも彼はその一言だけで全てを解決してしまう。


スッと動きを止めた紅覇。

下に広がるは、大きな海。



『ずっと傍に居てくれる…?』



幼かった自分が、かつてそんな言葉を言った場所だった。



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