時には風になって、花になって。




「私はお前だけは何があろうと喰わぬことを誓う」



サヤには分からなかった。


だって彼は人を食べない鬼だから。

どんなに役に立たない小娘だとしても、彼は食べなかった。



「例え腕を千切られようと、肩を噛まれようと───」



それはかつて理性を失った狼が彼にしてしまった罪だった。


それでも鬼は狼を殺そうとはしなかった。

化け物なんかじゃない、と言ってくれた。



「それでも私はお前だけは守り通すと誓う」



サヤ、分からないよ。
サヤはちょっとだけ馬鹿だから。

どう答えたらいいか分からない。


涙しか流れてくれない。



(サヤ…、サヤは……っ)



言葉を紡ごうとしても自分が何を伝えたいのか。

謝りたいのか、ありがとうって言いたいのか。


全部、わからない。



ピーーー…ッ!

ピーーーッ……!



だから少女は笛を鳴らせた。

言葉にならないから、気持ちを笛に乗せた。



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