時には風になって、花になって。
「サヤ、」
サヤはいっぱい伝えた。
あのとき、金鬼を前にぜんぶ伝えた。
それが紅覇だったとしたなら、これはサヤなりの小さな仕返しだ。
やっと縁談が決まりそうだったのに。
これでサヤは紅覇への気持ちも、自分の中でちゃんとけじめが付けられると思ったのに。
ピーーーー…ッ!
「サヤ、私が愛しているのは、」
(っ…!)
スッと笛を奪われる。
その笛を取り戻そうと伸ばした腕は、パシッと呆気なく取られてしまって。
「───お前だ。」
(紅…っ……)
唇に柔らかい感触が伝わった。
鬼が人間を食べてしまうようなものではなく。
それはとても優しく、甘美で。
時間が長く感じる。
それは触れるだけのものなのに。
「これは人間の愛情表現の1つらしい。
…人のお前であれば、この意味は分かるだろう」
涙を流す少女とは反対に、青年はやさしく笑った。
そして、もう1度。
2つの影は重なった───。