時には風になって、花になって。
それでも逢う度にその女に惹かれていく己がいた。
鬼ではなく、まるで自分と同じ人間同士かのように見てくれる女。
やはり人と鬼は交わることが出来る───そんなものが嬉しかった。
『伝えたいこと…?なんだそれは』
『馬鹿、…いま聞いたら意味ないじゃない。
言っとくけど女の子から言わせるなんて最悪なんだからねっ』
私も伝えよう。
お前に言いたいことがあった。
人間の命の儚さを知らなかった惨めな青年は、自分が鬼であるということすら忘れていたのだろう。
『私も……お前に伝えたいことがある』
それから何百年待ち続けた1人の鬼。
それでも女は2度と彼の前には現れなかった。
幾百という月日が経って、女はとっくに死んだと知らせがどこからか届いた。
そのとき初めて青年は人の命の脆さを知った。
初めて抱いた名前すら知らぬ淡い気持ちは、なんと馬鹿げたものだったのかと思い知った。
「…もしこれがお前の仕業だとするならば。
恨むぞ───…“ウタ”よ」
腕の中で目を閉じる幼子は、記憶の中の女とよく似ていた。
*