時には風になって、花になって。
木の枝に刺さった魚は火に炙られると、油を出しながら美味しそうな匂いと共に色が変化した。
なんやかんやあって3日は水しか飲んでいなかった。
ぎゅるるるるるーーー…。
声の出せないサヤの代わりにお腹は音を鳴らせてくれた。
「まだ、だ」
まだかまだかと、少女は行儀よく正座をしつつも紅覇が「よし」と言ってくれるのを待ちわびていた。
青年が魚の焼け具合を見ようと動く度に身を乗り出す勢いでサヤは瞳を輝かせる。
「焼けていなければまた腹を下すだろう。まだ待て」
この鬼は優しいんだと思う。
鮎は火を通さねば人間は食えん───と男は呟いて、暗闇の中、1つの炎を右手から出した。
どうやら紅覇は自由自在に炎を操れる妖怪らしいのだ。
手から出すことも出来るし、消すことだって出来る。
(お魚さん、ごめんなさい)
昼間までは川を泳いでいたのに。
サヤが食べてしまう…。
そんな罪悪感を感じつつも、それでもやっぱり紅覇のように長年食べないわけにはいかない。