時には風になって、花になって。
先程までは餌を待つ子犬のようだったのに、今はしゅんと首を下げている。
「…ふっ」
そんな少女を見つめ、紅覇は一瞬だけ鼻で笑った。
そんな珍しい音はサヤには聞こえていない。
「よし、そろそろ頃合いか」
油の乗った魚が目の前に差し出される。
もくもくと登った煙、ふんわり鼻を擽る香り。
そんなものに食欲は再び出てきてしまうのも単純な子供の身体ゆえの本能だろう。
(美味しい!)
ばくばく、もぐもぐ、はふはふ。
じっと見つめてくる整った顔を前にしてもサヤは遠慮など出来なかった。
「…うまいのか」
とびきりの笑顔で返す。
そうか、と紅覇は呟くだけだ。
本当に食べないのかな…。
少しお腹が落ち着いてきたこともあり、申し訳なくなってきた。
「要らん」
ゆっくり差し出せば、ぷいっと逸らされた。
呆気なく魚はサヤだけのものになる。
誰かと食べる食事。
食べていなくとも、見守ってくれるだけで孤独ではなかった。
(でも出来るなら一緒にご飯食べたいなぁ…)