時には風になって、花になって。




そんなサヤの視線を読み取ったのか、男は端に置いてある屍を持ってきた。



「私が口にするとするならこっちの方が良い」


(だめ…!!!)



咄嗟に目を閉じる1匹を庇うサヤ。


それは数日前に彼が狩ってきてくれた狼だった。

サヤの為にしてくれた、それは嬉しいことだけれど。



「何故だ。貴様も魚を食べている。やっていることは同じだろう」



サヤは口をつぐんだ。


そうだ、同じだ。
命に大きいも小さいもない。

魚だって生きていて、狼と何も変わらない。



(……)



サヤは魚を皿として使っていた葉の上に置いた。

そうして見つめ、両手をしっかり合わせる。



(…いただきます)



再び魚を取って口元へと運んだ。


この魚はサヤが食べて、そしてサヤの身体を作ってくれる。

このとき、この瞬間にサヤの体の一部になる。



「…やはり人間は変わっているな」



紅覇は手にしていた狼をそっと地面に寝かせ、食べることをしなかった。



< 21 / 180 >

この作品をシェア

pagetop