時には風になって、花になって。
そんなサヤの視線を読み取ったのか、男は端に置いてある屍を持ってきた。
「私が口にするとするならこっちの方が良い」
(だめ…!!!)
咄嗟に目を閉じる1匹を庇うサヤ。
それは数日前に彼が狩ってきてくれた狼だった。
サヤの為にしてくれた、それは嬉しいことだけれど。
「何故だ。貴様も魚を食べている。やっていることは同じだろう」
サヤは口をつぐんだ。
そうだ、同じだ。
命に大きいも小さいもない。
魚だって生きていて、狼と何も変わらない。
(……)
サヤは魚を皿として使っていた葉の上に置いた。
そうして見つめ、両手をしっかり合わせる。
(…いただきます)
再び魚を取って口元へと運んだ。
この魚はサヤが食べて、そしてサヤの身体を作ってくれる。
このとき、この瞬間にサヤの体の一部になる。
「…やはり人間は変わっているな」
紅覇は手にしていた狼をそっと地面に寝かせ、食べることをしなかった。