時には風になって、花になって。
着替えさせ、粥を食べさせれば何とか呼吸は落ち着いた。
今は静かに眠っている。
人間と妖怪───そんな説明をしてしまえば、女は血相を変えて怯えた眼差しを自分に送るだろう。
「ちょっと長松っ!あんたこんなに若い美丈夫連れてどうしたのよ!」
「そうよそうよ!私達にも紹介しなさいよねっ!」
夜だというのに店の前は女達で溢れ返っていた。
きゃあきゃあと鬱陶しい声だ。
「名前はなんて言うの?」
「この近くに住んでるの?ねぇ、今度あたしの店の団子食べに来て頂戴よぉ」
「あたしは向かい側の骨董屋の娘さ。明日寄っておくれよ」
紅覇は一切、返事をしなかった。
人間臭くて堪らない。
サヤと行動を共にしてからそんなものには慣れたと思ったのだが。
やはり慣れるものではない、この匂い。
そうだ、これが人間の匂いだ。
でも不思議だった。
サヤからはそんな匂いはあまりしない。
「もう帰っちまうのかい?まだゆっくりしていきゃいいのに」
「最初から長居するつもりはなかった」
翌朝の日の出と同じ時刻、紅覇は熱の引いた少女を抱えて村を出た。
人の見えなくなったところでタンッと地面を蹴って空を飛ぶ。
そんなものに少女は眠っていた目を開いた。