時には風になって、花になって。
「具合はどうだ」
(…だいじょうぶ)
音の無い中でもそう答えてくれる。
村へ下って正解だったと、紅覇は内心胸を撫で下ろした。
どこで捨てようか、そんなことを今までは心のどこかで思っていたというのに。
どうにも今は考えもしていない己に驚いた。
(くれは、ありがとう)
その笑顔が見れただけでいい───なんて。
鬼らしくない。
とても馬鹿げた惨めな感情だった。
「…安全な場所へと行かねばな」
もう、1人の命では無くなったらしい。
あいつらはこの先も追っては危害を加えに来るだろう。
それがあの男の、羅生門の命令ならば尚更。
クイッっと袖が引かれる。
(サヤも、いく)
まるで「置いて行かないで」と言われているようだった。
そんな微かに揺れる瞳が紅覇を捉えて、きゅっと胸に顔を埋めてくる。
小さく幼い命だ。
力強く握ってしまえば簡単に壊れてしまうだろう。
今だって長く伸びた爪を食い込ませないように何とか止めているのだから。
「全くつまらんことをしたな」
(うんっ)
少女は笑った。
その言葉を放った鬼である青年がどんな顔をしていたかなんて。
少女だけが知っているものだ───。