時には風になって、花になって。
また、か。
静かな暗闇に鼻を啜る音が聞こえる。
それを隠すように籠る声に、紅覇は薄目を開いて見つめた。
パキパキと鳴る焚き火を背に横たわる少女は震えている。
「───怖い夢でも見たのか」
最近こんなことが増えた。
人間の子供というのは夜になると親を思い出すのか。
それは鬼である己が一番理解し難い感情だった。
「サヤ」
そんな名前を呼ぶことにすら慣れてしまった。
私が人間の小娘を当たり前のように傍に置いている。
食べることも殺すこともせず。
そんな自分を知れば、あの男は確実に「恥さらし」と嗤うのだろう。
(サヤは強い子、)
ぶんぶんと勢いよく首を横に振って、無理矢理にゴシゴシ涙を拭っている。
己が鬼で良かったと思うのは、人間より感覚機能が優れていること。
少女が何を思い、何を考えているのか。
じっと精神を研ぎ澄ませて見れば感知出来た。
「煩くて私が眠れんのだ」
ひょいっと小さな身体を抱き上げ、ふわっと夜の空を飛ぶ。
鬼の己は睡眠など毎日取らなくても支障はなかった。
……この娘に気を遣っているのか私は。