時には風になって、花になって。




また、か。

静かな暗闇に鼻を啜る音が聞こえる。


それを隠すように籠る声に、紅覇は薄目を開いて見つめた。

パキパキと鳴る焚き火を背に横たわる少女は震えている。



「───怖い夢でも見たのか」



最近こんなことが増えた。

人間の子供というのは夜になると親を思い出すのか。

それは鬼である己が一番理解し難い感情だった。



「サヤ」



そんな名前を呼ぶことにすら慣れてしまった。


私が人間の小娘を当たり前のように傍に置いている。

食べることも殺すこともせず。


そんな自分を知れば、あの男は確実に「恥さらし」と嗤うのだろう。



(サヤは強い子、)



ぶんぶんと勢いよく首を横に振って、無理矢理にゴシゴシ涙を拭っている。


己が鬼で良かったと思うのは、人間より感覚機能が優れていること。

少女が何を思い、何を考えているのか。


じっと精神を研ぎ澄ませて見れば感知出来た。



「煩くて私が眠れんのだ」



ひょいっと小さな身体を抱き上げ、ふわっと夜の空を飛ぶ。

鬼の己は睡眠など毎日取らなくても支障はなかった。


……この娘に気を遣っているのか私は。



< 28 / 180 >

この作品をシェア

pagetop