時には風になって、花になって。




(きれい…!)



そっと下ろせば、パタパタとはしゃぐように目の前に広がる海へと向かった。

砂浜に足を取られては転けて、それでも楽しそうに笑うサヤ。


暗闇へ昇った月が水面に映し出される。

辺りは暗いというのに、キラキラと瞬く光。



「溺れても助けてやらんぞ」



気づけば足を海につけては遊び出した。

きゃあきゃあと跳び跳ねる声が聞こえなくとも聞こえる。


兄弟でもなければ親子でもない。

私とこの娘の関係は、血など繋がっていなければ種族すら違う。



「…また髪が伸びている」



1日1日、その姿は少しずつ変化している。

人間という生き物は不思議なものだ。


コロコロと表情は変わり、妖怪が思わないような心を持っている。

それなのに花のように一瞬にして枯れてしまうのだから。



(くれは、)



そう呼ばれた気がして、少女の元へ近付いた。

傍へと立てば両手を上げてくる。



(抱っこ)



軽々と抱き上げて、目の前に輝く月を眺めた。



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