時には風になって、花になって。
ゆっくり目を閉じ、母親を思い浮かべる。
夜の怖さに寝付けなかったとき、
怖い夢を見て泣いてしまったとき、
小さな己を腕に抱いて子守唄をうたってくれたあの優しい温もりを。
「ぎゃぁぁぁぁーーーッッ!!」
「お、お前が何故こんなところに…ッ!!」
痛みが無かった。
それどころか影も開けたような気がして。
次目を開いたとき、先程までの2匹の妖怪は姿を消していた。
(っ…!)
ゴロンッと隣に転がってきたのは血だらけの生首だった。
たったいま自分を食べようとしていた妖怪の顔だ。
(だぁれ…?)
キラキラ輝いて見えた。
少女よりも遥かに年上の青年が見下ろすように立っている。
微かに開いた口からは銀色に光る牙が見えた。
「…つまらんことをした」
思ったよりも低くもない声だ。
サラサラと靡く真紅色の髪、そうして爪は長く尖っている。
琥珀色の瞳は闇に輝くお月様に見えた。
「…小娘、なぜ私について来る」