時には風になって、花になって。
小さな腕が首に回る。
ふわっと、幼子の匂いだ。
それでもやはり人間臭さが無かった。
「…お前は親を覚えているか」
覚えていないのなら別に良い───と、静かに付け足した。
少女はそんな問いかけにじっと海を見つめて、小さな口を開く。
(おっかあはね、あったかい)
「…そうか」
微笑みはスッと消えた。
(死んだときは…つめたい)
波が高く上がった。
聞こえないというのは厄介だった。
もしいま声が出せる子だったとしたならば。
(わるい奴に、ころされた)
波の音に呆気なく消されていたというのに。
(───あ!)
本当に好奇心の強い娘だ。
あれは何、これは何と、新しいものを見つける度に幾度も聞いてくる。
親を殺されたと、簡単に言ってしまえる人の子。
「…憐れな。」
波の音が消してくれた。
ポツポツと浮かび上がる淡い光を前にして、サヤの涙と哀しげな瞳は空へ消えた。
(あれはなぁに?)
「下級の妖怪だ。火の玉が具現化された魂の集まりに過ぎん」