時には風になって、花になって。
「…う”…ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ーーーッ!!!」
まるで遠吠えのような声。
全身を血が駆け巡る。
本能のまま狩りをする動物のように。
理性の外れた狩人のように。
(くれは…?)
そんな眼差しさえ、鬼にはどうでもよいものだ。
「…これが私の本来の姿だ」
姿はあの日のように角を現し、瞳は充血し、そして牙も伸びる。
首に触れる長さだった髪は腰まで伸びて、額には鬼の証である刻印が浮き出る。
「愚かな小娘よ。貴様など一瞬にして塵と化してくれよう」
そんなものが出来なかったからこそ己は一族の恥さらしとされていたというのに。
人を殺せぬ鬼───かつてそう呼ばれた鬼がいた。
覇者など笑わせる。
(サラサラ……あったかいなぁ…)
その娘は長く伸びた髪をすくい、ふにゃりと笑う。
動じることなく、今までの青年と話していた頃と何も変わらない顔で。
何故だ……?
何故、貴様は怖がらない───?