時には風になって、花になって。
サヤは強くなりたいと思った。
それはいつからか、少なくとも鬼である青年と出会ったとき以降であることは確かだ。
「全く、私が居なかったらお前は足を踏み外して落ちていた」
襟を掴まれ、ぶらんぶらんと左右に小刻みに揺れる身体。
見下ろす崖はヒュォォォォと音を発し、その奥は真っ暗闇が続いていた。
山へ山菜を採りに行っただけなのに。
どうして自分はいつも迷惑ばかりかけてしまうのだろう。
(どうして、わかったの…?)
サヤは1人でこの場所まで来ていたというのに。
どうしていつもこの男は分かってしまうのだろう。
「匂いで分かる。それと、お前が呼んでいる気がしてな」
紅覇の声色は初めて会ったときよりも柔らかくなっていた。
一緒に過ごしている期間に区別が付くようになった。
今は機嫌がいいな、とか。
今はちょっと怒っているな、とか。
(サヤ…つよくなりたい)
そう胸に誓った少女はもう2度と彼の手を煩わせるものか、と心に誓った。