時には風になって、花になって。




銀色をした狩衣。

漆黒色をした括り袴と合わせると、やはり宵闇の月だ。


そんなものを掴むかの如く、サヤは小さな歩幅で追いかけた。



「くっ……」



すると男は地面に片膝をつく。

肩を押さえ庇うようにして顔を歪ませていた。


少女が隣へ追い付けば、男はギロッと鋭く睨みを効かせる。



「…私に構うな。さもなくば喰らい尽くされたいか」



牙が伸び、瞳は赤く充血させている。

額から飛び出すように、その象徴といわんばかりの角がにょきにょきと飛び出した。



(タケノコみたい…)



サヤがそう思っているとは知らないだろう、若き鬼はとうとうその頭角を表す。


怯えさせているのだろう。

そうして早く去れと言っているのだ。



「───…なにをしている」



少女の次の行動に青年は目を微かに開かせる。


ペタペタと、角から始まって頬を、そして人間とは形の若干違う耳を。

サヤは迷うことなく触れた。


最終的にはその肩の傷口にまで。



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