時には風になって、花になって。
(だめっ…!)
サヤが両腕を広げて盾になったのは、魚ではなく鬼の青年だった。
魚は盗られちゃってもいい。
それでも紅覇だけは守らなきゃ。
いつもサヤは助けられてばかりだから。
(わーーー!!!)
サヤは出ない声を必死に叫んだ。
戦闘体勢へと変わった猫に全身は震えたが、それでも逃げなかった。
そんな猫が満足気にニヤッと笑ったような気がしたのは気のせいか。
───ガサガサガサッ。
まさか豹のような一回り以上大きな親玉を連れて来ているなんて。
(サヤ、食べられちゃう…っ)
それでも退こうとは思わなかった。
その影に覆い尽くされそうになっても、足も腕もガタガタと震えたとしても。
サヤは紅覇の前に立ち塞がっていた。
「シャーーーッ!!」
どこから狙ってくるか。
ギラッと光った瞳に、尖る爪。
開いた口からは小娘など簡単に噛み砕けてしまう牙。
「───去れ」
ピタッと、全員の動きは止まった。