時には風になって、花になって。
「ここは私の領土だ。貴様らの場所を潰されたくなかったらさっさと戻れ」
その低い声と殺気に、サヤを襲いかかろうとしていた数匹は後退る。
そうしてもう1度、男はドスの効いた声を放つ。
「2度と来るな」
サッと逃げて行く野良猫。
再び辺りは静寂が包んだ。
瞼を開いている紅覇は、どこかスッキリとしている表情で。
それでもせっかくの睡眠を起こしてしまった罪悪感がサヤの中に生まれた。
「…よく寝た」
それは優しさか、本音か。
少女はその本当の意味を理解出来るほど大人ではなかった。
けれど“よく寝た”と、その意味を素直に取るだけでも嬉しさがあった。
(くれはっ、サヤが、倒した?)
「あぁ。昼間のお前ならとっくに喰われていただろうな」
(サヤ、くれは、守った?)
「そうだな、感謝する」
紅覇がお礼を言ってくれた。
その膝の上に乗って、サヤは幸せそうに笑う。
「もう遅い。早く寝ろ」
少女は腕の中、今日はとてもいい夢が見れそうだと。
ゆっくり瞳を閉じた。