時には風になって、花になって。
「…やはり口に合わん」
やっぱり駄目だったか…。
串に刺さった魚の塩焼きを渡してはみたが、一口小さく噛ってすぐ様眉を寄せた。
クスッとサヤは笑って魚を受けとる。
「なにが可笑しい」
(なんでもない)
かぶりを振って、その白い腕を掴む。
同じように繋いではくれないものの離されもしない。
好きにしろと、紅覇はきっと言っている。
(───っ…!?)
「どうした?」
ただならぬ何かを察したのか。
息を詰まらせたサヤにすぐに反応した紅覇。
それは村人の中、1人の女とすれ違ったときだった。
「サヤ…!!」
ダッ…!っと駆け出した少女。
すれ違ったのはたった今のはずなのに、既に女は人混みの中へと消えていた。
それでも追いかける。
そんなはずない、見間違いに決まっている。
そんなこと分かってはいるけれど。
(おっかあ……っ!!)
似ていただけかもしれない。
ただ、そう見えただけ。
それでもたった1人の母親だった。