時には風になって、花になって。
村では評判の美人だったのだ。
妖艶な雰囲気に周りの男達はいつも目を奪われていた。
それでも活発なところもあって優しくて、それでいてサヤを女手ひとつで育ててくれた。
(おっかあ…っ!おっかあ…!!)
サヤの顔は覚えていないかもしれない。
確かに幼い頃、母は死んだはずだ。
それでも確かに彼女は一瞬サヤを見つめた瞬間、昔のようにクスリと笑ったのだ。
「…久しぶりね、サヤ」
その女はサヤの声を感知したのか、少女へと向き直った。
すると優しく微笑む顔があった。
名前を呼んでくれる記憶の中の母親と変わらない声があった。
(おっかあ……なんで…)
「会いたかったわ。色々話したいことが私もあるの」
数年ぶりの再会だというのに、未だに信じられなさすぎて涙すら出ない。
目の前の母親の意外にもあっさりとした受け応えに、どこか違和感はあったとしても。
それでもおっかあだ。
大好きだった母親が目の前にいる。