時には風になって、花になって。
「さぁ、おっかあのところへおいで」
女はこちらへ来い来いと手招きする。
その瞳を見つめていると、どうにも全てを吸い込まれてしまいそうだった。
少女は一歩、また一歩と母親へと腕を伸ばす。
「失せろ化け狐」
サヤの腕は母親を掴めはしなかった。
背後から向かった火炎が目の前の女を焼き尽くす。
(おっかあ…!!)
ギャァァァァァーーーーと悲鳴を上げ、そいつは正体を現した。
人間の皮を被ったその妖怪はだんだんと狐の影に変化してゆく。
パラパラと塵になり灰になり、そして村人達は怖がって逃げ帰る。
「あいつは死んだ者の姿形となり人間の命を喰らう妖怪だ」
妖怪…?
だったらさっきのおっかあは単に化けられていただけだというのか。
顔も声も全く同じだった。
(もしかしてそう見えていたのはサヤだけ…?)
「…1度死んだ命は2度と戻らん」
帰るぞ───と、紅覇は少女へ放つ。
そんなに都合が良いことなんか無いとわかっている。
命は儚いものだ。
自分だっていつかは目の前の鬼よりも遥か先に死ぬ。