時には風になって、花になって。




何千として生きてきた己でも、知らないことは数えきれない程にあるらしい。

目の前の光景を見て紅覇は微かに目を見開いた。



「人間はお断りだよ」


「化けているだけだ」


「その小娘もかい?」



蛇のような顔をした番台の女は、紅覇の後ろにそっと隠れるサヤを覗き込み、ため息を1つ。



「ここは妖怪の村だ。化ける方がおかしな話さ」



どんな傷も癒してくれる温泉がある───なんて噂を聞き付けて向かってみれば。

山のまたその先。

人間が行けるような場所ではないからこそ薄々勘づいていたが。


まさか本当に妖怪だけが住み着く村があろうとは。



「温泉はこの先だよ。あぁ、途中で幼子を趣味とする爺さんが居るから気ぃつけな」



人間の匂いで見破られるのではないかと過ったが、どうにも上手くやり遂げたらしい。

サヤはホッと胸を撫で下ろして紅覇の腕を引く。


紅覇は特に怪我はしていないが、2日前熊に喰われそうになったサヤ。

そのとき出来た傷の痛みに睡眠も取れない程であった。



「人間の身体は厄介なものだな」



鬼の己であれば半日すれば傷は塞がるというのに。



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