時には風になって、花になって。
「…呼ぶのが遅い」
ずっと黙っていた青年の声。
気づいたときには男の手はサヤから離れていた。
そして長松も同じ。
「ぁが…っ!!」
「手が滑った」
クルッと男は180度回転する。
そして地面へ倒れたところに容赦なく青年は踏みつけた。
「ぐぁ…っ!!」
「なんだ、居たのか」
鬼としての力を紅覇は一切使わなかった。
たまたまそうなっただけ、
たまたまそうなってしまっただけ、
そんな程で片付けてしまった。
「サヤ、私に気を遣わなくていい。お前はいつどんな時でも身の危険が生じたとき、笛を鳴らせ」
でも紅覇、サヤが笛で呼ばなくても声が出なくてもちゃんと気付いてくれたんだよ。
「怪我はしていないか」
(うん)
ガラッと、随分と静かになってしまった。
先程まで騒いでいた男達はまるで屍状態。
「あんた……」
長松がお礼を言うよりも先に紅覇は背中を向ける。
「私は借りを返したまでだ」