時には風になって、花になって。
「なにか怒らせることをしたか」
ここに連れて来ればいいとでも思っているんだろう、この男は。
何かあれば必ずこうして海へと連れて来てくれた。
その綺麗な輝きに目を奪われて、涙なんかすぐに引っ込んでしまったっけ。
(サヤも妖怪になりたかった…)
妖怪だったらずっと一緒に居れた。
妖怪だったら、こんな面倒なものはなかったかもしれない。
でももし自分が妖怪だったら、紅覇とはきっと出会っていなかっただろう。
クイッと袖を引けば、すぐに見つめ返してくれる。
(今日、太陽が出てないよ)
サヤは目の前を指差す。
「日食だろうな」
(にっしょく…?)
「月が太陽を隠す。その日は太陽が一時的だが見えなくなる」
どうしてだろう。
月に隠されている太陽の影を見ていると、血が沸き立つような感覚がする。
「よう、紅覇。相変わらずつまんねェことしてんなよ」
「っ…!」
ボワッと向かってくる熱の光線。
紅覇はすぐにサヤを抱え、間一髪で避けた。