時には風になって、花になって。
“サヤ、重い。離れろ”
彼はいつもそうだった。
口では文句を言うのに、自分からは離そうとしない。
それでいて何かあればいつもサヤを抱きかかえてくれるのは、いつだって紅覇だった。
「───泣くな、サヤ。お前は化け物ではない」
抱き止めてくれる腕はサヤの知っている大好きなもの。
肩を噛み付いたその場所からは、ドクドクと血が流れている。
そして狼はゆっくりと力を加えることをやめた。
(くれ……は…)
鬼から流れる血とは反対に、狼からは銀色の涙が流れている。
シュゥゥゥーーーと、蒸気を放つように戻ってゆく身体。
「おいおい、なんだよ面白くねェな」
朦朧とする意識の中で、目の前の青年は優しく微笑んでくれている。
くれは、ごめん。
ごめんね───…
「まぁいい。いずれそちらから来るだろうからな」
2人の鬼は空の彼方へと消えて行った。
いつの間にか獣の姿ではなくなって、しかしまだ完全には戻っていない。
それは初めてその姿に変えられてしまった代償か。