時には風になって、花になって。
子連れ鬼
「ついて来るな、目障りだ」
問いかけて何度目だったか。
素っ気なく突き放しても小娘は去ろうとしない。
それどころか己の後ろをちょこまかちょこまかと追ってくる。
「…いっそのこと殺してしまおうか」
ポツリと呟き、鬼の青年───紅覇はクルッと向き直った。
普段は人間の姿に化けることが出来る。
それも妖怪である己の1つの術。
「…なんだそれは」
しかし、ピタッと紅覇は動きを止めた。
そんな青年へ1匹のトカゲを差し出す少女。
その屈託の無い笑顔が何よりも目障りだ。
昨夜の傷も今は塞がってるというのに、それでも何かと世話をしたがる娘に「人間の食べ物は口に合わん」と言った紅覇。
下級妖怪から助けられた恩を返そうとしているのだろう。
(あげ、る)
パクパクとそう伝えてくる。
そんな2人の影は周りからはどう見えているのだろう。
覇道の道を歩む覇者と呼ばれる自分がこんなにも弱き命と共に歩いているなど。
「要らん。私は数年食べずとも生きれる」
見た目は20歳前後の眉目秀麗の青年───名を、紅覇(くれは)といった。