時には風になって、花になって。
お前が私の左腕になろうというのか。
そして私がお前の声に───。
「…それは随分と愛(う)い左腕を貰えたものだな」
紅覇は微笑んだ。
それは初めて見せる顔だった。
(───笑った!!)
サヤはぴょんぴょんと跳び跳ねる。
男の表情はスッと戻ったものの、それでも少女の中にはいつまでも大切に芽吹き続けるだろう。
人間と鬼、はたまた狼と鬼か。
そんなもの、どうだっていい。
「サヤ、」
今までは米俵を担ぐように少女を抱えていた。
しかし今回は少し違った。
まるで大切な姫を抱えるように。
左腕があったならば、そのまま横抱きにしていただろう。
「安心しろ。何処に居ようと、どんなに離れようと…お前の声は必ず私に届く」
お前は笑った私を見て大層喜んでいたが。
そんなお前の気持ちが少しわかるような気がする。
「───…私がお前の声になろう。」
ピーーーッ!!
小鳥たちの囀りに混じる高らかな笛の音。
そんなふうに無邪気に笑う少女を前にして、1人の鬼は儚い命を抱き締めた。