時には風になって、花になって。
それから数日経っても当たり前のように後ろをついて来る。
時には川に落ちそうになったところを、また時には動物の罠にかかった日には助けてやったり。
そんなことをしているうちに随分と懐かれてしまったらしい。
「…貴様、名は何という」
夜も耽る時間帯、遠くからフクロウの鳴き声が聞こえる。
焚き火の傍で踞る少女へと声をかけた紅覇。
そのボロボロと古びた着物からは、泥と血の混じったような匂いがする。
(サ、ヤ)
パクパクと口を動かしたが、暗闇の為に見えていないと思ったのか。
小娘は傍らから木の枝を拾って地面に文字を書いた。
「サヤ…か。」
私は鬼だ。
妖怪の中でも上級に値する身分である。
夜だろうが昼だろうが変わらず目は利くというのに。
「…親はどうした」
ふるふると首を横に振るサヤ。
親が居ない───そんなものに特に驚きもしないのは、常世の残酷さがそう麻痺させているのだろう。
「歳は幾つだ」
今まで独りで生きてきた紅覇からすれば会話はとても面倒だった。
人間と鬼、それは生きる世界も違ければ時間も違う。
とくに己は時間や年齢をわざわざ数えてはいないからこそ。