BATEL
第16章 ペイン
およそ500人の兵を率いてサウセル国の地を馬に乗り地響を鳴らして歩いた。
サウセル国は緑が少なく荒野、谷が多く存在した。
クィレリア将軍
「西海谷まであと少しだ。魔物に気を付けろよ。」
クィレリア将軍はこの500人の兵、隊長を率いる指揮官となった。
ラッセル、ミレー、レビィはそれぞれ将軍の後ろにまたその後ろはメルーン王国の旗を掲げた旗兵を4名馬を率いっていた。
クィレリア将軍
「おい、聞こえるか。この谷の側だ。」
岩肌しかない谷を軍勢が歩く側の谷壁から小さな小石が転がった。サウセル国兵の雄叫びだった。
衛兵
「戦闘だ!!」
狭い谷を抜け広い荒野に出た。サウセル国兵が300に対し魔物の軍勢1000という不利な状況で戦闘をしていた。
クィレリア将軍
「横に広がれ!!」
メルーン兵が一気に横に並んだ。
クィレリア将軍は剣を抜いた。
ラッセル
「第一部隊!弓を構え!」
後列に横に並んだ第一部隊。
レビィ
「第二部隊!戦闘態勢!」
前列に並んだ第二部隊。
ミレー
「第三部隊!火属性構え!火属性の後、風、雷を順に戦闘態勢へ!」
第一部隊の後ろに並んだ第三部隊の魔術兵の
兵士たち。
クィレリア将軍
「黒の我が同士が不利な状況で戦闘をしている。白の我が軍でネズミのように灰色になり敵のチーズを食い漁れ!」
兵士たちは一斉に笑った。
緊張した兵士たちをほぐそうとした。
クィレリア将軍
「勝って我が家に帰ろう。そして我が子がいれば抱いてキスをしろ!」
クィレリア将軍
「そしてサウセル国のエールを飲み干そう!」
兵士たちは歓声を上げた。
クィレリア将軍
「角笛を鳴らせ!!」
兵は高々とメルーン王国の角笛を鳴らした。
サウセル兵
「?!」
「あの甲冑は....メルーン兵だ!!」
「助太刀だ!!」
ハーパー将軍
「メルーン兵が来た!お前ら一先ず退却せよ!!」
数百あまりのサウセル兵は一斉にメルーン兵の元へ退却した。
???
「醜い化け物よ。態勢を整えよ。」
クィレリア将軍
「医療班準備せよ!!!」
ハーパー将軍
「はははは。同士よ。来るのが遅ぇじゃねえか。」
額から血が出ており黒い甲冑は泥だらけでより濃く黒く光っていた。
クィレリア将軍
「すまねぇ。余りにも距離が長いもんでくる途中にババアに道聞いていたんだ。」
ハーパー将軍
「アンデッド族しかいねえよここは。」
クィレリア将軍
「で、あれは何だ。どう見たってこいつら操ってるよな。」
皮膚が腐りただれ骨まで見えたアンデッド族が軍をなして喚いていた。
それを高い谷からボロボロの黒いローブを顔まで纏った生物が指揮をとっていた。
ハーパー将軍
「さあな。ただアンデッド族を操れる謎の生物、ただものじゃねぇ。」
クィレリア将軍
「人型か厄介な相手だな。剣じゃどうにもならねぇ。火と光だな。」
ハーパー将軍
「馬鹿言ってんじゃねーよ。光属性が現れたのは東の小さな諸国でそれも50年も前の話じゃねーか。魔族討伐で殺されたとかなんとか...」
クィレリア将軍
「第一部隊、弓兵を合図に。第二部隊、レビィを戦闘に先陣を切れ。敵の後衛を第三部隊ミレーの合図で火を放て。」
ミレー レビィ ラッセル
「はっ!!」
クィレリア将軍
「ハーパー将軍。サウセル兵でありったけのエール用意しな。」
ラッセル
「第一部隊弓兵構え。」
???
「我が僕よ。敵を全滅せよ。」
黒いローブの着た男が唱え更に500のアンデッド属性が地面から這い出た。
ハーパー将軍
「更に増えたか。サウセル兵よ。メルーン兵第一部隊とともに出陣せよ!!」
クィレリア将軍
「増えても一緒だ。一泡吹かしてやる。ラッセル!!」
アンデッド族はものすごいスピードで一斉に攻めて来た。
ラッセル
「第一部隊!!弓を放て!!!」
弓は青い空を黒の矢で覆い一瞬暗くなりアンデッド族に突き刺さった。
シュパパパパパッ!!!!!
矢はアンデッド族に突き刺さり尚走り込んできた。
レビィ
「第二部隊!サウセル兵!!剣を構え!!」
黒の甲冑と白の甲冑の兵は一気に剣を抜いた。
シャキンッ!!!!!
レビィ
「突撃!!!!」
走ってくるアンデッド族にレビィ先頭に突っ込んだ。レビィは唯一盾を持たない騎士だった。
ハーパー将軍
「あのガキ、盾を持たず先頭で走ってまず死ぬぞ?」
クィレリア将軍
「まあ、見てな。」
レビィの細い剣はアンデッド族に当たる直前に横に剣を振った。
スパンッ!!!!!!!
白く光る閃光がアンデッド族およそ20体の腹部に刺さり真っ二つになり消滅した。
ハーパー将軍
「まさか....あのガキ光属性か?!」
レビィの斬撃は止まることなく一振りで何十体ものアンデッド族がどんどん消滅していく。
ミレー
「第三魔術兵!火属性用意。放て!!!」
それぞれ魔術兵は唱え杖から赤い炎の弾が放たれた。
メルーン兵が来て一気に場を優勢にしクィレリア将軍、ハーパー将軍も戦闘に加わり一体残らず消失した。
クィレリア将軍
「あの高みの見物は降りてこないのか?」
ミレー
「あいつに火を放て!!」
3人の魔術兵は火属性の呪文を唱え炎を放った。
黒尽くめの生物は火をすり抜けた。
ハーパー将軍
「なに?!すり抜けただと?!」
???
「この世を統べる者を導くその時まで。」
そして黒いローブを着た人型の生物は消えていった。
クィレリア将軍
「あいつは何者なんだ?」
レビィ
「どうゆう意味だ.....?!」
クロエ
「ん....んー!!!」
大きな伸びをし起床した。
長い真っ赤な髪の毛をクシでとかしている最中隣から物音が聞こえた。どうやら3人は気がついたようだ。
レイ
「腹が....いてぇ!!!!」
メル
「き....気持ち悪い....」
ゾーイ
「うわぁ!!見える!!!虫!!虫を払ってくれ!!!」
ガチャッ....
ゼラ
「クロエ、起きてたのかい?」
クロエ
「3人起きたみたいだね。」
ゼフ
「おはよう、クロエ。そして小さな子猫もおはよう。」
ルナ
「にゃぁーーーーー」
ルナも大きな伸びをした。
クロエは男子部屋に入った。
ゾーイ
「ク.....クロエ!!!虫!!!虫!!!」
クロエ
「虫なんていないよ?」
ゼフ
「幻覚だ。今薬飲ませたから時期に落ち着くだろ。」
メル
「クロエー。。助けてぇ〜」
レイ
「はぁ....よぉ、クロエぇ」
ゼラ
「クロエに内緒でキノコ食べた罰だね。」
クロエ
「おはよう、レイ。体調は良さそうだね。」
レイ
「おかげさまでな.....悪りぃ。今日は休みだ。」
ゼラ
「明日もあんたら動けないよ。」
クロエは3人の額に置いてあったタオルを濡らしまた額に置いた。
メル
「クロエ....私の死体はキール村の....小川のそばで....」
クロエ
「食あたりで大げさだね。こんなんで死ぬわけないでしょ。」
レイ
「俺らをどうやって運んだ?」
クロエ
「手伝ってくれた人がいるの。よくなったら紹介するよ。」
レイ
「そうか....悪いな。」
クロエは外のキッチンで簡単な食材でスープを作り3人に食べさした。
ゼラ
「クロエちゃん。朝食いるかい?」
クロエ
「クッキーとホットミルクを2つお願いしますー!」
ゼラ
「一つはその小さな子猫ね!」
クロエの朝食は簡単なものだった。
準備された朝食は1階のロビーに置いてあり、ターナとゼラは布団や衣類を干しゼフは庭の芝を刈っていた。
クロエ
「今日も何も変わらないね。ね。ルナ。」
ゾーイ
「うおぇええええええぇぇ!!」
2階から嗚咽が聞こえた。
クロエ
「な.....何も変わらないね。」
クロエはクスッと笑った。
クロエはクッキーを食べながらルナに聞いた。
クロエ
「今日は何しよっか。」
ルナ
「にゃ?」
クロエ
「適当にぶらぶらしよっか。」
クロエは朝食を済ませキール村でよく着た黒のワンピースを来てベルトで少し丈を上げた。
クロエ
「杖なんていらないか!攻撃なんてできないしね!」
杖は持たず右の太ももにママからもらった護身用のダガーだけ付けた。
最後に髪はゴムで縛りお団子の髪型にした。
クロエ
「さ!いこか!」
ルナ
「んにゃぁ!」
クロエ
「ゼラさんゼフさんターナ!いってきまー!」
ゼフ
「あの子は元気だなぁ。」
まずは海まで歩いた。
『踊るキリ貝亭』は早朝はまだオープンしてない様子だった。
そのまま海沿いを歩きメインストリートに向かった。
「今日の特売品だよー!!!」
「魚はいるかい?」
「さぁ!寄ってきな!寄ってきな!」
相変わらず賑わった港町だった。
ルナ
「にゃあ。」
クロエ
「どうしたの?」
さまざまな動物がガラス張りで仕切られたお店があった。
クロエ
「使い魔屋....?」
ルナ
「にゃにゃにゃあ、にゃにゃにゃにゃ!」
クロエ
「ごめんね、頑張って猫語覚えたいんだけどなかなか難しいの。」
ルナを抱き抱えクロエは歩き出した。
クロエ
「ルナは転送が苦手だから今日は出来るだけ歩こうね。」
「あぁー。くろちんーー。」
クロエ
「くろちん?!」
後ろから声がした。何か聞き覚えあるこのやる気のなさそうな声。
白のよれよれのシャツを細めの黒いパンツに入れず出していた。ムゼイアだった。
ムゼイア
「やあ。くろちん。今日もいい天気で眠たくなるねぇ。」
ムゼイアは大きなあくびをしながらクロエを抱きしめた。黄緑色の髪は後ろで結んでいたにもかかわらず片目は隠れていた。
むにゅっ....
クロエとほぼ同じ背丈のムゼイアは胸と胸が当たった。
クロエ
(やっぱり女の子だ。)
「そうだねぇ。眠たくなるねぇ!ところで今日は任務じゃないの?」
ムゼイア
「んー。いやー。あれ、今日はぁ....あれ?休みだよね?あれ?」
クロエ
「うん!私は休みだよ!」
ムゼイア
「じゃあ僕も休みだね!」
クロエ
「ところで何してたのー?」
ムゼイア
「何してたっけー?んー。」
クロエ
「小腹が空いたね!何か食べるー?」
ムゼイア
「そうだね!お腹すいたよぉ〜。」
メルーン王国よりも広いゴレアリア大国の港町には多くの屋台が立ち並んでいた。
「あ!クロエさん!」
クロエ
「あぁー!エリナさん。」
エリナ
「今日明日動けないですもんね。」
クロエ
「エリナさんたちのお陰だよ。買い物?」
エリナの衣装は白いワンピースを綺麗に着こなしベージュの皮ベストを着ていた。
エリナ
「今日は休みですよ。明日から任務です。ムゼイアさんも一緒なんですね。」
クロエ
「エリナさんもどう?屋台巡り!」
エリナ
「すみません、私任務で珍しい材料手に入れましたのでこれから薬屋で錬金するところなんですよ。」
ムゼイア
「分かったよぉ〜。くろちん。いこう〜。」
クロエ
「そっか!んじゃよい一日を!」
エリナ
「クロエさんもね!」
宿に一度戻ったエリナ。
ファリア
「エリナどしたー?今から薬屋だろ?」
ファリアは斧を研いでいた。
エリナ
「はい。先程クロエさんに出会いましてムゼイアさんと一緒です。ナージャさんと合流して屋台巡りするそうですよ。」
ファリア
「大丈夫だった?クロエ。」
エリナ
「何がです?」
ファリア
「いや、うちのムゼイアあんな性格だろ?ムゼイアの世界に引き込まれてねーかなーと思ってよ。」
エリナ
「なるほど。大丈夫そうですよ。尚更クロエさんが引き込んでる感じでした。」
ファリア
「あはははは。そうか。あいつもムゼイアっぽいところあるもんな。」
エリナ
「やる気がないところです?」
ファリア
「いやいや!なんかのほほーんって感じだろ。あいつも。」
エリナ
「ふふふふ。そうですね。確かに分かるような気がします。」
屋台で食べ歩き人気のない噴水で2人で一休みをしていつの間にかムゼイアとクロエはくっついてうたた寝をしていた。
ルナは噴水に群がる小鳥を追いかけ回していた。
ムゼイア
「ふぁ〜。」
大きなあくびをしたムゼイア。
クロエの太ももについたダガーを見た。
ムゼイア
「くろちん。くろちん。」
クロエ
「んー?」
目を覚ました。
ムゼイア
「くろちんそのダガーは?」
クロエ
「ママが護身用にって持たせてくれたんだ。」
ムゼイア
「ふーん。杖じゃなくダガーなんだねぇ。」
クロエ
「杖あっても攻撃できないからね!でもダガーなんて使ったことないよ。」
ムゼイア
「ちょっと見して〜。」
クロエ
「いいよ!」
クロエは太ももについたダガーを引き抜き刃を持ち渡した。
ムゼイア
「刀身は赤く長さもある。これは刺すより首を掻っ切る用のダガーだねぇ。この刀身が赤いのはなんだっけぇ。」
クロエ
「ムゼイアは詳しいんだね!」
ムゼイア
「僕は弓とダガーを持って戦うからね!でもこんなダガー見たことないねぇ。持ち手も凄く複雑な彫刻。....ん?何か書いてあるよ?」
クロエ
「どこどこー?」
まじまじとあまり見たことがなかったダガーの刀身に文字が刻まれていた。
クロエ
「これって文字?なのかな?」
ムゼイア
「僕たちでは解読できそうにないねぇ。見たことのない文字だもんねぇ。」
ムゼイアはクロエにダガーを返した。
クロエ
「次はどこいくー?」
ムゼイア
「んー。くろちんについていくー。」
クロエはムゼイアの手を握りルナを頭に乗せて歩いた。
ムゼイアはまたあくびをし目を擦りながら歩いた。
ゴレアリア大国最大の図書館だった。
中は本の匂いで充満し静かな空気がまたムゼイアの眠りを誘うようだった。
ムゼイアはゆっくり歩いて椅子に座り机に伏せて寝た。
クロエは調べたいことがあった。
・採掘士の資格
・天文学
・雷属性の基礎要素
・メリスンとナミアの冒険
......
全く興味のない本ばかりだった。
図書館の管理人の髭もじゃのホビット族。
クロエ
「すみません。調べたい本があるんですが...」
「この大きな図書館はなんでもあります。ただ調べたいものを探すのも一つの楽しみです。」
クロエ
「あ....はぁ....」
「冗談ですよ。ほほほほほ。で、調べたいものとは....?!」
クロエ
「悪魔族のこと。それと闇属性のこと。」
ホビット族は一気に顔が強張った。
「お嬢さん。何故探すのかは検討がつきます。ただの興味本位でしょう。ここにはそんな本はありません。恐らくどこの図書館にも置いてないでしょう。」
クロエ
「どうして?」
「この世に存在する全ての本。つまり『悪魔』と『闇』に関する記された本、関連する本は全て燃やされたのはご存知でしょう?それほど危ない代物なのです。さあ、帰ってください。」
クロエとムゼイアは追い出されるように図書館を出た。
クロエ
「何もう....調べたかっただけなのに....」
???
「お嬢ちゃん。調べたい本があるんだって?」
クロエ
「ん?」
追い出された後図書館から出てきた灰色のボロボロのローブを纏い頭も隠していた背の高い男が言った。
???
「この平和な地で『悪魔』と『闇』を簡単に口に出すもんじゃないよ。ほら、ついてきな。」
クロエ
「おじさんどこいくの?」
ムゼイア
「ふぁー。あのおじさんだーれぇ?僕はここのベンチで座って待ってるよぉ〜。」
ムゼイアは図書館前のベンチで座って寝た。
クロエは眠そうなルナをムゼイアの膝の上に置いた。
クロエは見知らぬ怪しそうなおじさんについて行った。
結構歩いた。
人気のない路地に入り壁のドアを開いた。
薄暗く決して広くない。ただこのおじさんの家であろう部屋だった。
「おじさんおじさん言うんじゃないよ。対してお前と歳変わんないからね。」
クロエ
「何歳ですか?」
「29。」
クロエ
(いや、変わるし!....)
「で、私に何の用?」
その男は汚く散らかった机から飲みかけの酒瓶を取り飲みだした。
「まあ、そこの椅子に座りな。」
クロエは恐る恐る座った。
「そんな怖がらないでほしーなぁ。取って食うわけじゃないんだ。んで、お前も呑むか?」
新しい瓶を机に置いた。
クロエ
「も...もらう。」
クロエは前屈みにし瓶を取った。
その男はクロエの前屈みから覗いた胸に隠れた物を見た。
クロエ
「ぷはぁ。」
「おー。いける口だな。俺はペインだ。よろしくな。」
クロエ
「クロエ。です...」
ペインはフードを取った。
金の色に短髪。そして綺麗な赤い色素の目。顎は少し髭が生えていた。
目はなぜかママにそっくりだった。
ペイン
「なあ、お前のその胸に隠してある物、少し見てもいいか?」
クロエ
「だめ!!絶対だめ!!」
ペイン
「とらないよ。見るだけだ。」
クロエは少し考えて胸から赤い石を取り出しそしてペインに渡した。
ペイン
「お前のお母さんの名は?」
クロエ
「セリア=ナーヴァ」
ペイン
「隠された名があるだろ?俺は知ってる。怖がることはない。お前の本当の名は?」
クロエ
「.....クロエ....クロエ=プレシアス=ナーヴァ。」
ペイン
「やっぱりな。その名を久しぶりに聞いた。俺以外に教えてないだろうな?」
クロエ
「絶対に教えるなってキツく言われたから...」
ペイン
「でも俺に教えた。こうやって酒で釣って教えろだのこの石を見せろだの言われても絶対に答えるな。分かったか?ほら、この石を返すよ。」
クロエ
「それは自分で決めるよ。」
クロエは首にかけ石を胸にしまった。
ペイン
「自分で決める....か。まあそれもいいが人間族には隠せ。絶対だ。」
クロエ
「わ....わかった。」
ペイン
「驚いたな。セリアまだ生きてんのか?」
クロエ
「ママを知ってるの?」
ペイン
「お前のママの兄だ。」
クロエ
「へぇ....そう....なら25歳は何回目の25歳かな?」
ペイン
「はははははは。驚いた。そこまで知ってるんだな。何人兄弟だ?」
クロエ
「兄がいる。」
ペイン
「男か。男なら人間族か?」
クロエ
「そう。」
ペイン
「んで、お前は?」
クロエ
「.......」
ペイン
「ああ。いいさ。何も言わなくてもいい。」
クロエ
「どうして分かるの?」
ペイン
「俺の妹、んまあお前のママはダンピール族なのは知ってるだろ?ハーフヴァンパイアだ。それが子が産むとき男の場合は遺伝しない。ただ女は遺伝するんだ。ヴァンパイア族かダンピールか。そしてお前の瞳を見れば分かる。俺と同じ色。セリアと同じ色だ。そして属性も遺伝する。お前の属性は『火』だろ?」
クロエは酒瓶を呑んでこう言った。
クロエ
「3割正解ね。」
ペイン
「どうゆうことだ?」
クロエ
「まず私の質問に答えて。ママの兄だっていう証拠は?」
ペイン
「俺の瞳、髪色を見ればわかるだろ?」
クロエは納得せず睨んだ。
ペイン
「はぁ〜。分かったよ。」
ペインは大きなため息をつき服を脱ぎだした。
クロエ
「え、ちょっ!!!」
ペインは上半身裸になり背中を向けた。
背中には大きな蜘蛛の絵が書いてあった。
そう。クロエの胸にしまった赤い石に刻まれた蜘蛛。あの秘密の部屋に隠されていた蜘蛛の絵だった。
ペイン
「これで信じただろ?」
クロエ
「分かった。話すよ。」
クロエはもう一口お酒を口に含み飲み込んだ。
クロエ
「私はヴァンパイア族でもダンピール族でもない。ティーフリング族。そして属性は『闇』。」
ペインは口に含んだ酒をブーッ!と吐いた。
ペイン
「マジかよ.....マジなのか?」
クロエ
「ティーフリング族の証明はできない。私だって自分が何者かも分かってない。ただ....これを見て。」
クロエは腰についた鞄からパパにもらった魔道具を手に取り火を灯した。
ペイン
「紫色の.....火.....」
ペインは動揺を隠すことができずフラフラし椅子にもたれかかった。
ペイン
「『闇』を.....その魔法を使ったことは?」
クロエ
「ないよ。分からない。」
ペインは酒でごまかすように一気飲みをした。
ペイン
「そ....そりゃそうさ。わかるはずもない。呪文も文字も全て『古代ミレニアル語』だからな。今扱える者は少ないだろうよ。」
クロエ
「ミレ....何?」
ペイン
「『古代ミレニアル語』。お前は何があっても知ってはならない。お前が知ればこの世は破滅を迎えるだろうからな。お前が生まれた国の国王でも口止めされたり冒険者になるのは酷く反対されただろうな!お前は黙ってセリアと静かに田舎に篭って暮らすべきなんだ!!」
ペインは酷く取り乱した。
クロエ
「どうしたの?!急に....」
ペイン
「いや....悪い。」
クロエ
「何か....あったの?」
ペイン
「まあな。まあ一気に話すと頭が混乱するからなぁ。どうせこの国に長居するつもりだろう?」
クロエ
「何か知っているようね。」
ペイン
「400年生きてるからな。世界悪魔族戦争も2度経験した。」
ペインは落ち着きを取り戻した様子だった。
クロエ
「世界悪魔族戦争?」
ペイン
「800年前、400年前、200年前に世界全域まで拡大した悪魔族とそれ以外の種族の戦争だよ。1400年戦争とも言われている。お前も知ってるだろ?悪魔族ってのは存在するだけで迫害され殺されてきた。酷い話だよ。全く。」
ペイン
「その戦争の発端、悪魔族、魔族、魔物を束ね世界を敵に回した奴らは一つの共通点があってな。」
クロエ
「一つの共通点?」
ペイン
「『闇』属性だよ。200年前はヴァンパイア族、400年前は堕天使族、そして800年前はティーフリング族。この3人の悪魔族は皆『闇』属性だった。特にこの中でティーフリング族の魔王はこの3人の中でも最強と謳われ400年もの間戦争を巻き起こし世界を破滅寸前まで陥った。」
クロエ
「破滅....」
ペイン
「そっ。神と同じ力を持った最も強大で聖なる力と闇の力を持った堕天使族でさえティーフリング族の僕となった。ただティーフリング族はこの世に1人しか存在しない。産まれながらに持った王の力。」
ペイン
「そいつらは産まれてすぐ捨てられたり何かをずっと恨んで憎んで生きてきて戦争まで発展したりしたがなんかお前見てると戦争の『せ』の文字でさえ感じないな。はははは。」
クロエ
「それ、どーゆー意味よ!」
ペイン
「まあお前に話さなきゃいけないことは山ほどあるが今日はここらでやめとこう。一気に話しても混乱するからな。で、明日は暇か?」
クロエ
「うん。」
ペイン
「今日はここまでだ。」
クロエ
「えええええ!教えてよー!!」
ペイン
「また今度な。」
クロエ
「いいよーこの家に住んでるんでしょ?勝手に入るから。」
ペイン
「俺は明日から行くところがある。拠点として使ってるだけだ。」
クロエ
「えええええ!!次この国戻るのいつー?」
ペイン
「そのうちだ。その時まで適当に任務でもやってろよ。」
クロエの頭をさすりドアから出た。
クロエ
「本当にママの兄だったら私の叔父になるね。てか!ムゼイア忘れてた!!」
ムゼイアはずっと一歩も動かずベンチで寝ていた。
クロエ
(よく寝る子だなぁ....寝るなら宿で寝たらいいのにぃ....)
「ほら!ムゼイア!そろそろ行くよー!」
ムゼイア
「えぇ....もう朝ぁ....?!」
クロエ
「夕方だよ。ほら、宿に戻ろう。」
夜はいつも変わらず一人で蝋燭が小さくなるまで眺めながら手紙を書いた。
クロエ
(悪魔族.....か。普通の人間になりたいな.....。)
サウセル国は緑が少なく荒野、谷が多く存在した。
クィレリア将軍
「西海谷まであと少しだ。魔物に気を付けろよ。」
クィレリア将軍はこの500人の兵、隊長を率いる指揮官となった。
ラッセル、ミレー、レビィはそれぞれ将軍の後ろにまたその後ろはメルーン王国の旗を掲げた旗兵を4名馬を率いっていた。
クィレリア将軍
「おい、聞こえるか。この谷の側だ。」
岩肌しかない谷を軍勢が歩く側の谷壁から小さな小石が転がった。サウセル国兵の雄叫びだった。
衛兵
「戦闘だ!!」
狭い谷を抜け広い荒野に出た。サウセル国兵が300に対し魔物の軍勢1000という不利な状況で戦闘をしていた。
クィレリア将軍
「横に広がれ!!」
メルーン兵が一気に横に並んだ。
クィレリア将軍は剣を抜いた。
ラッセル
「第一部隊!弓を構え!」
後列に横に並んだ第一部隊。
レビィ
「第二部隊!戦闘態勢!」
前列に並んだ第二部隊。
ミレー
「第三部隊!火属性構え!火属性の後、風、雷を順に戦闘態勢へ!」
第一部隊の後ろに並んだ第三部隊の魔術兵の
兵士たち。
クィレリア将軍
「黒の我が同士が不利な状況で戦闘をしている。白の我が軍でネズミのように灰色になり敵のチーズを食い漁れ!」
兵士たちは一斉に笑った。
緊張した兵士たちをほぐそうとした。
クィレリア将軍
「勝って我が家に帰ろう。そして我が子がいれば抱いてキスをしろ!」
クィレリア将軍
「そしてサウセル国のエールを飲み干そう!」
兵士たちは歓声を上げた。
クィレリア将軍
「角笛を鳴らせ!!」
兵は高々とメルーン王国の角笛を鳴らした。
サウセル兵
「?!」
「あの甲冑は....メルーン兵だ!!」
「助太刀だ!!」
ハーパー将軍
「メルーン兵が来た!お前ら一先ず退却せよ!!」
数百あまりのサウセル兵は一斉にメルーン兵の元へ退却した。
???
「醜い化け物よ。態勢を整えよ。」
クィレリア将軍
「医療班準備せよ!!!」
ハーパー将軍
「はははは。同士よ。来るのが遅ぇじゃねえか。」
額から血が出ており黒い甲冑は泥だらけでより濃く黒く光っていた。
クィレリア将軍
「すまねぇ。余りにも距離が長いもんでくる途中にババアに道聞いていたんだ。」
ハーパー将軍
「アンデッド族しかいねえよここは。」
クィレリア将軍
「で、あれは何だ。どう見たってこいつら操ってるよな。」
皮膚が腐りただれ骨まで見えたアンデッド族が軍をなして喚いていた。
それを高い谷からボロボロの黒いローブを顔まで纏った生物が指揮をとっていた。
ハーパー将軍
「さあな。ただアンデッド族を操れる謎の生物、ただものじゃねぇ。」
クィレリア将軍
「人型か厄介な相手だな。剣じゃどうにもならねぇ。火と光だな。」
ハーパー将軍
「馬鹿言ってんじゃねーよ。光属性が現れたのは東の小さな諸国でそれも50年も前の話じゃねーか。魔族討伐で殺されたとかなんとか...」
クィレリア将軍
「第一部隊、弓兵を合図に。第二部隊、レビィを戦闘に先陣を切れ。敵の後衛を第三部隊ミレーの合図で火を放て。」
ミレー レビィ ラッセル
「はっ!!」
クィレリア将軍
「ハーパー将軍。サウセル兵でありったけのエール用意しな。」
ラッセル
「第一部隊弓兵構え。」
???
「我が僕よ。敵を全滅せよ。」
黒いローブの着た男が唱え更に500のアンデッド属性が地面から這い出た。
ハーパー将軍
「更に増えたか。サウセル兵よ。メルーン兵第一部隊とともに出陣せよ!!」
クィレリア将軍
「増えても一緒だ。一泡吹かしてやる。ラッセル!!」
アンデッド族はものすごいスピードで一斉に攻めて来た。
ラッセル
「第一部隊!!弓を放て!!!」
弓は青い空を黒の矢で覆い一瞬暗くなりアンデッド族に突き刺さった。
シュパパパパパッ!!!!!
矢はアンデッド族に突き刺さり尚走り込んできた。
レビィ
「第二部隊!サウセル兵!!剣を構え!!」
黒の甲冑と白の甲冑の兵は一気に剣を抜いた。
シャキンッ!!!!!
レビィ
「突撃!!!!」
走ってくるアンデッド族にレビィ先頭に突っ込んだ。レビィは唯一盾を持たない騎士だった。
ハーパー将軍
「あのガキ、盾を持たず先頭で走ってまず死ぬぞ?」
クィレリア将軍
「まあ、見てな。」
レビィの細い剣はアンデッド族に当たる直前に横に剣を振った。
スパンッ!!!!!!!
白く光る閃光がアンデッド族およそ20体の腹部に刺さり真っ二つになり消滅した。
ハーパー将軍
「まさか....あのガキ光属性か?!」
レビィの斬撃は止まることなく一振りで何十体ものアンデッド族がどんどん消滅していく。
ミレー
「第三魔術兵!火属性用意。放て!!!」
それぞれ魔術兵は唱え杖から赤い炎の弾が放たれた。
メルーン兵が来て一気に場を優勢にしクィレリア将軍、ハーパー将軍も戦闘に加わり一体残らず消失した。
クィレリア将軍
「あの高みの見物は降りてこないのか?」
ミレー
「あいつに火を放て!!」
3人の魔術兵は火属性の呪文を唱え炎を放った。
黒尽くめの生物は火をすり抜けた。
ハーパー将軍
「なに?!すり抜けただと?!」
???
「この世を統べる者を導くその時まで。」
そして黒いローブを着た人型の生物は消えていった。
クィレリア将軍
「あいつは何者なんだ?」
レビィ
「どうゆう意味だ.....?!」
クロエ
「ん....んー!!!」
大きな伸びをし起床した。
長い真っ赤な髪の毛をクシでとかしている最中隣から物音が聞こえた。どうやら3人は気がついたようだ。
レイ
「腹が....いてぇ!!!!」
メル
「き....気持ち悪い....」
ゾーイ
「うわぁ!!見える!!!虫!!虫を払ってくれ!!!」
ガチャッ....
ゼラ
「クロエ、起きてたのかい?」
クロエ
「3人起きたみたいだね。」
ゼフ
「おはよう、クロエ。そして小さな子猫もおはよう。」
ルナ
「にゃぁーーーーー」
ルナも大きな伸びをした。
クロエは男子部屋に入った。
ゾーイ
「ク.....クロエ!!!虫!!!虫!!!」
クロエ
「虫なんていないよ?」
ゼフ
「幻覚だ。今薬飲ませたから時期に落ち着くだろ。」
メル
「クロエー。。助けてぇ〜」
レイ
「はぁ....よぉ、クロエぇ」
ゼラ
「クロエに内緒でキノコ食べた罰だね。」
クロエ
「おはよう、レイ。体調は良さそうだね。」
レイ
「おかげさまでな.....悪りぃ。今日は休みだ。」
ゼラ
「明日もあんたら動けないよ。」
クロエは3人の額に置いてあったタオルを濡らしまた額に置いた。
メル
「クロエ....私の死体はキール村の....小川のそばで....」
クロエ
「食あたりで大げさだね。こんなんで死ぬわけないでしょ。」
レイ
「俺らをどうやって運んだ?」
クロエ
「手伝ってくれた人がいるの。よくなったら紹介するよ。」
レイ
「そうか....悪いな。」
クロエは外のキッチンで簡単な食材でスープを作り3人に食べさした。
ゼラ
「クロエちゃん。朝食いるかい?」
クロエ
「クッキーとホットミルクを2つお願いしますー!」
ゼラ
「一つはその小さな子猫ね!」
クロエの朝食は簡単なものだった。
準備された朝食は1階のロビーに置いてあり、ターナとゼラは布団や衣類を干しゼフは庭の芝を刈っていた。
クロエ
「今日も何も変わらないね。ね。ルナ。」
ゾーイ
「うおぇええええええぇぇ!!」
2階から嗚咽が聞こえた。
クロエ
「な.....何も変わらないね。」
クロエはクスッと笑った。
クロエはクッキーを食べながらルナに聞いた。
クロエ
「今日は何しよっか。」
ルナ
「にゃ?」
クロエ
「適当にぶらぶらしよっか。」
クロエは朝食を済ませキール村でよく着た黒のワンピースを来てベルトで少し丈を上げた。
クロエ
「杖なんていらないか!攻撃なんてできないしね!」
杖は持たず右の太ももにママからもらった護身用のダガーだけ付けた。
最後に髪はゴムで縛りお団子の髪型にした。
クロエ
「さ!いこか!」
ルナ
「んにゃぁ!」
クロエ
「ゼラさんゼフさんターナ!いってきまー!」
ゼフ
「あの子は元気だなぁ。」
まずは海まで歩いた。
『踊るキリ貝亭』は早朝はまだオープンしてない様子だった。
そのまま海沿いを歩きメインストリートに向かった。
「今日の特売品だよー!!!」
「魚はいるかい?」
「さぁ!寄ってきな!寄ってきな!」
相変わらず賑わった港町だった。
ルナ
「にゃあ。」
クロエ
「どうしたの?」
さまざまな動物がガラス張りで仕切られたお店があった。
クロエ
「使い魔屋....?」
ルナ
「にゃにゃにゃあ、にゃにゃにゃにゃ!」
クロエ
「ごめんね、頑張って猫語覚えたいんだけどなかなか難しいの。」
ルナを抱き抱えクロエは歩き出した。
クロエ
「ルナは転送が苦手だから今日は出来るだけ歩こうね。」
「あぁー。くろちんーー。」
クロエ
「くろちん?!」
後ろから声がした。何か聞き覚えあるこのやる気のなさそうな声。
白のよれよれのシャツを細めの黒いパンツに入れず出していた。ムゼイアだった。
ムゼイア
「やあ。くろちん。今日もいい天気で眠たくなるねぇ。」
ムゼイアは大きなあくびをしながらクロエを抱きしめた。黄緑色の髪は後ろで結んでいたにもかかわらず片目は隠れていた。
むにゅっ....
クロエとほぼ同じ背丈のムゼイアは胸と胸が当たった。
クロエ
(やっぱり女の子だ。)
「そうだねぇ。眠たくなるねぇ!ところで今日は任務じゃないの?」
ムゼイア
「んー。いやー。あれ、今日はぁ....あれ?休みだよね?あれ?」
クロエ
「うん!私は休みだよ!」
ムゼイア
「じゃあ僕も休みだね!」
クロエ
「ところで何してたのー?」
ムゼイア
「何してたっけー?んー。」
クロエ
「小腹が空いたね!何か食べるー?」
ムゼイア
「そうだね!お腹すいたよぉ〜。」
メルーン王国よりも広いゴレアリア大国の港町には多くの屋台が立ち並んでいた。
「あ!クロエさん!」
クロエ
「あぁー!エリナさん。」
エリナ
「今日明日動けないですもんね。」
クロエ
「エリナさんたちのお陰だよ。買い物?」
エリナの衣装は白いワンピースを綺麗に着こなしベージュの皮ベストを着ていた。
エリナ
「今日は休みですよ。明日から任務です。ムゼイアさんも一緒なんですね。」
クロエ
「エリナさんもどう?屋台巡り!」
エリナ
「すみません、私任務で珍しい材料手に入れましたのでこれから薬屋で錬金するところなんですよ。」
ムゼイア
「分かったよぉ〜。くろちん。いこう〜。」
クロエ
「そっか!んじゃよい一日を!」
エリナ
「クロエさんもね!」
宿に一度戻ったエリナ。
ファリア
「エリナどしたー?今から薬屋だろ?」
ファリアは斧を研いでいた。
エリナ
「はい。先程クロエさんに出会いましてムゼイアさんと一緒です。ナージャさんと合流して屋台巡りするそうですよ。」
ファリア
「大丈夫だった?クロエ。」
エリナ
「何がです?」
ファリア
「いや、うちのムゼイアあんな性格だろ?ムゼイアの世界に引き込まれてねーかなーと思ってよ。」
エリナ
「なるほど。大丈夫そうですよ。尚更クロエさんが引き込んでる感じでした。」
ファリア
「あはははは。そうか。あいつもムゼイアっぽいところあるもんな。」
エリナ
「やる気がないところです?」
ファリア
「いやいや!なんかのほほーんって感じだろ。あいつも。」
エリナ
「ふふふふ。そうですね。確かに分かるような気がします。」
屋台で食べ歩き人気のない噴水で2人で一休みをしていつの間にかムゼイアとクロエはくっついてうたた寝をしていた。
ルナは噴水に群がる小鳥を追いかけ回していた。
ムゼイア
「ふぁ〜。」
大きなあくびをしたムゼイア。
クロエの太ももについたダガーを見た。
ムゼイア
「くろちん。くろちん。」
クロエ
「んー?」
目を覚ました。
ムゼイア
「くろちんそのダガーは?」
クロエ
「ママが護身用にって持たせてくれたんだ。」
ムゼイア
「ふーん。杖じゃなくダガーなんだねぇ。」
クロエ
「杖あっても攻撃できないからね!でもダガーなんて使ったことないよ。」
ムゼイア
「ちょっと見して〜。」
クロエ
「いいよ!」
クロエは太ももについたダガーを引き抜き刃を持ち渡した。
ムゼイア
「刀身は赤く長さもある。これは刺すより首を掻っ切る用のダガーだねぇ。この刀身が赤いのはなんだっけぇ。」
クロエ
「ムゼイアは詳しいんだね!」
ムゼイア
「僕は弓とダガーを持って戦うからね!でもこんなダガー見たことないねぇ。持ち手も凄く複雑な彫刻。....ん?何か書いてあるよ?」
クロエ
「どこどこー?」
まじまじとあまり見たことがなかったダガーの刀身に文字が刻まれていた。
クロエ
「これって文字?なのかな?」
ムゼイア
「僕たちでは解読できそうにないねぇ。見たことのない文字だもんねぇ。」
ムゼイアはクロエにダガーを返した。
クロエ
「次はどこいくー?」
ムゼイア
「んー。くろちんについていくー。」
クロエはムゼイアの手を握りルナを頭に乗せて歩いた。
ムゼイアはまたあくびをし目を擦りながら歩いた。
ゴレアリア大国最大の図書館だった。
中は本の匂いで充満し静かな空気がまたムゼイアの眠りを誘うようだった。
ムゼイアはゆっくり歩いて椅子に座り机に伏せて寝た。
クロエは調べたいことがあった。
・採掘士の資格
・天文学
・雷属性の基礎要素
・メリスンとナミアの冒険
......
全く興味のない本ばかりだった。
図書館の管理人の髭もじゃのホビット族。
クロエ
「すみません。調べたい本があるんですが...」
「この大きな図書館はなんでもあります。ただ調べたいものを探すのも一つの楽しみです。」
クロエ
「あ....はぁ....」
「冗談ですよ。ほほほほほ。で、調べたいものとは....?!」
クロエ
「悪魔族のこと。それと闇属性のこと。」
ホビット族は一気に顔が強張った。
「お嬢さん。何故探すのかは検討がつきます。ただの興味本位でしょう。ここにはそんな本はありません。恐らくどこの図書館にも置いてないでしょう。」
クロエ
「どうして?」
「この世に存在する全ての本。つまり『悪魔』と『闇』に関する記された本、関連する本は全て燃やされたのはご存知でしょう?それほど危ない代物なのです。さあ、帰ってください。」
クロエとムゼイアは追い出されるように図書館を出た。
クロエ
「何もう....調べたかっただけなのに....」
???
「お嬢ちゃん。調べたい本があるんだって?」
クロエ
「ん?」
追い出された後図書館から出てきた灰色のボロボロのローブを纏い頭も隠していた背の高い男が言った。
???
「この平和な地で『悪魔』と『闇』を簡単に口に出すもんじゃないよ。ほら、ついてきな。」
クロエ
「おじさんどこいくの?」
ムゼイア
「ふぁー。あのおじさんだーれぇ?僕はここのベンチで座って待ってるよぉ〜。」
ムゼイアは図書館前のベンチで座って寝た。
クロエは眠そうなルナをムゼイアの膝の上に置いた。
クロエは見知らぬ怪しそうなおじさんについて行った。
結構歩いた。
人気のない路地に入り壁のドアを開いた。
薄暗く決して広くない。ただこのおじさんの家であろう部屋だった。
「おじさんおじさん言うんじゃないよ。対してお前と歳変わんないからね。」
クロエ
「何歳ですか?」
「29。」
クロエ
(いや、変わるし!....)
「で、私に何の用?」
その男は汚く散らかった机から飲みかけの酒瓶を取り飲みだした。
「まあ、そこの椅子に座りな。」
クロエは恐る恐る座った。
「そんな怖がらないでほしーなぁ。取って食うわけじゃないんだ。んで、お前も呑むか?」
新しい瓶を机に置いた。
クロエ
「も...もらう。」
クロエは前屈みにし瓶を取った。
その男はクロエの前屈みから覗いた胸に隠れた物を見た。
クロエ
「ぷはぁ。」
「おー。いける口だな。俺はペインだ。よろしくな。」
クロエ
「クロエ。です...」
ペインはフードを取った。
金の色に短髪。そして綺麗な赤い色素の目。顎は少し髭が生えていた。
目はなぜかママにそっくりだった。
ペイン
「なあ、お前のその胸に隠してある物、少し見てもいいか?」
クロエ
「だめ!!絶対だめ!!」
ペイン
「とらないよ。見るだけだ。」
クロエは少し考えて胸から赤い石を取り出しそしてペインに渡した。
ペイン
「お前のお母さんの名は?」
クロエ
「セリア=ナーヴァ」
ペイン
「隠された名があるだろ?俺は知ってる。怖がることはない。お前の本当の名は?」
クロエ
「.....クロエ....クロエ=プレシアス=ナーヴァ。」
ペイン
「やっぱりな。その名を久しぶりに聞いた。俺以外に教えてないだろうな?」
クロエ
「絶対に教えるなってキツく言われたから...」
ペイン
「でも俺に教えた。こうやって酒で釣って教えろだのこの石を見せろだの言われても絶対に答えるな。分かったか?ほら、この石を返すよ。」
クロエ
「それは自分で決めるよ。」
クロエは首にかけ石を胸にしまった。
ペイン
「自分で決める....か。まあそれもいいが人間族には隠せ。絶対だ。」
クロエ
「わ....わかった。」
ペイン
「驚いたな。セリアまだ生きてんのか?」
クロエ
「ママを知ってるの?」
ペイン
「お前のママの兄だ。」
クロエ
「へぇ....そう....なら25歳は何回目の25歳かな?」
ペイン
「はははははは。驚いた。そこまで知ってるんだな。何人兄弟だ?」
クロエ
「兄がいる。」
ペイン
「男か。男なら人間族か?」
クロエ
「そう。」
ペイン
「んで、お前は?」
クロエ
「.......」
ペイン
「ああ。いいさ。何も言わなくてもいい。」
クロエ
「どうして分かるの?」
ペイン
「俺の妹、んまあお前のママはダンピール族なのは知ってるだろ?ハーフヴァンパイアだ。それが子が産むとき男の場合は遺伝しない。ただ女は遺伝するんだ。ヴァンパイア族かダンピールか。そしてお前の瞳を見れば分かる。俺と同じ色。セリアと同じ色だ。そして属性も遺伝する。お前の属性は『火』だろ?」
クロエは酒瓶を呑んでこう言った。
クロエ
「3割正解ね。」
ペイン
「どうゆうことだ?」
クロエ
「まず私の質問に答えて。ママの兄だっていう証拠は?」
ペイン
「俺の瞳、髪色を見ればわかるだろ?」
クロエは納得せず睨んだ。
ペイン
「はぁ〜。分かったよ。」
ペインは大きなため息をつき服を脱ぎだした。
クロエ
「え、ちょっ!!!」
ペインは上半身裸になり背中を向けた。
背中には大きな蜘蛛の絵が書いてあった。
そう。クロエの胸にしまった赤い石に刻まれた蜘蛛。あの秘密の部屋に隠されていた蜘蛛の絵だった。
ペイン
「これで信じただろ?」
クロエ
「分かった。話すよ。」
クロエはもう一口お酒を口に含み飲み込んだ。
クロエ
「私はヴァンパイア族でもダンピール族でもない。ティーフリング族。そして属性は『闇』。」
ペインは口に含んだ酒をブーッ!と吐いた。
ペイン
「マジかよ.....マジなのか?」
クロエ
「ティーフリング族の証明はできない。私だって自分が何者かも分かってない。ただ....これを見て。」
クロエは腰についた鞄からパパにもらった魔道具を手に取り火を灯した。
ペイン
「紫色の.....火.....」
ペインは動揺を隠すことができずフラフラし椅子にもたれかかった。
ペイン
「『闇』を.....その魔法を使ったことは?」
クロエ
「ないよ。分からない。」
ペインは酒でごまかすように一気飲みをした。
ペイン
「そ....そりゃそうさ。わかるはずもない。呪文も文字も全て『古代ミレニアル語』だからな。今扱える者は少ないだろうよ。」
クロエ
「ミレ....何?」
ペイン
「『古代ミレニアル語』。お前は何があっても知ってはならない。お前が知ればこの世は破滅を迎えるだろうからな。お前が生まれた国の国王でも口止めされたり冒険者になるのは酷く反対されただろうな!お前は黙ってセリアと静かに田舎に篭って暮らすべきなんだ!!」
ペインは酷く取り乱した。
クロエ
「どうしたの?!急に....」
ペイン
「いや....悪い。」
クロエ
「何か....あったの?」
ペイン
「まあな。まあ一気に話すと頭が混乱するからなぁ。どうせこの国に長居するつもりだろう?」
クロエ
「何か知っているようね。」
ペイン
「400年生きてるからな。世界悪魔族戦争も2度経験した。」
ペインは落ち着きを取り戻した様子だった。
クロエ
「世界悪魔族戦争?」
ペイン
「800年前、400年前、200年前に世界全域まで拡大した悪魔族とそれ以外の種族の戦争だよ。1400年戦争とも言われている。お前も知ってるだろ?悪魔族ってのは存在するだけで迫害され殺されてきた。酷い話だよ。全く。」
ペイン
「その戦争の発端、悪魔族、魔族、魔物を束ね世界を敵に回した奴らは一つの共通点があってな。」
クロエ
「一つの共通点?」
ペイン
「『闇』属性だよ。200年前はヴァンパイア族、400年前は堕天使族、そして800年前はティーフリング族。この3人の悪魔族は皆『闇』属性だった。特にこの中でティーフリング族の魔王はこの3人の中でも最強と謳われ400年もの間戦争を巻き起こし世界を破滅寸前まで陥った。」
クロエ
「破滅....」
ペイン
「そっ。神と同じ力を持った最も強大で聖なる力と闇の力を持った堕天使族でさえティーフリング族の僕となった。ただティーフリング族はこの世に1人しか存在しない。産まれながらに持った王の力。」
ペイン
「そいつらは産まれてすぐ捨てられたり何かをずっと恨んで憎んで生きてきて戦争まで発展したりしたがなんかお前見てると戦争の『せ』の文字でさえ感じないな。はははは。」
クロエ
「それ、どーゆー意味よ!」
ペイン
「まあお前に話さなきゃいけないことは山ほどあるが今日はここらでやめとこう。一気に話しても混乱するからな。で、明日は暇か?」
クロエ
「うん。」
ペイン
「今日はここまでだ。」
クロエ
「えええええ!教えてよー!!」
ペイン
「また今度な。」
クロエ
「いいよーこの家に住んでるんでしょ?勝手に入るから。」
ペイン
「俺は明日から行くところがある。拠点として使ってるだけだ。」
クロエ
「えええええ!!次この国戻るのいつー?」
ペイン
「そのうちだ。その時まで適当に任務でもやってろよ。」
クロエの頭をさすりドアから出た。
クロエ
「本当にママの兄だったら私の叔父になるね。てか!ムゼイア忘れてた!!」
ムゼイアはずっと一歩も動かずベンチで寝ていた。
クロエ
(よく寝る子だなぁ....寝るなら宿で寝たらいいのにぃ....)
「ほら!ムゼイア!そろそろ行くよー!」
ムゼイア
「えぇ....もう朝ぁ....?!」
クロエ
「夕方だよ。ほら、宿に戻ろう。」
夜はいつも変わらず一人で蝋燭が小さくなるまで眺めながら手紙を書いた。
クロエ
(悪魔族.....か。普通の人間になりたいな.....。)