BATEL
第2章 キール村の薬屋
<ようこそキール村へ>
大きな看板にペンキで書かれ色鮮やかなドライフラワーガーランドであしらわれていた。
村に入ると活気溢れる多種他族の賑やかな声が飛び交っていた。
オレンジ色、赤色、緑色、青色、様々な色の小さな屋台が立ち並び果物や野菜、お肉、骨董品などが並べられていた。
「よお!クロエー!遊ぼうぜー!」
声をかけてきたのはクロエと同い年くらいで背丈も近い活発な男の子。髪は黒く目は男の子にしてはすごくまつげの長い人間族。
幼馴染であり名はレイ=スティンバー。
「だめだよ!今からゼトおばさんのところに行くの!」
クロエはそう言い、行こうとしたが
「なら一緒に行こうぜ!俺も面白い話聞きたいしさ!」
「いいよー!行こう!」
少し坂町になり丘の上に大きな家があり、外の壁には薬で使うであろう花や葉っぱ、大型の昆虫の羽などぶら下がり、庭にも色んな植物で溢れていた。
玄関に小さな看板には
<キール村の薬屋>
こう書かれていた。
「おやまあ、クロエとレイかな?」
玄関の横には赤いベンチがあり綺麗な白髪で少しふっくらしニコニコしている老人がゼトおばさんが座ってくつろいでいた。
「ゼトおばさんこんにちは!クリープリーフ持ってきたよ!」
クロエは嬉しそうにカゴの中身を見せた。
「まあ凄い量だねぇ〜助かるよ。ありがとう。ほら2人ともお入り。クロエの好きなクッキー焼いてるよ。」
「わーい!やったー!」
クロエとレイはゼトおばさんのお店に入った。
お店入るとすぐにカウンターがありカウンターの奥の壁には青色、赤色、黄色、色んな色の薬が小瓶に入って綺麗に並べられていた。
その側に薬を調合する錬金机が置いてあった。
奥の部屋にはゼトおばさんがよく使うキッチンがあり、そこでお茶をしながら物知りなゼトおばさんのお話が聞くのがとても大好きなのだ。
クロエ
「今日はどんな話を聞かしてくれるのー?」
レイ
「なあ、ゼトおばさんこの1番分厚い本なんだー?」
キッチンとカウンターの境目には天井まで本がびっしりの本棚からレイは1番分厚い本を取り出した。
その本は年季が入っており少し埃がかぶっていた。
「この話が聞きたいのかい?」
クロエ レイ
「うん!!」
ゼトおばさんは分厚い本を膝にのして埃を振り払い最初の1ページを開いた。
ゼトおばさん
「昔、昔、今より800年前の話じゃよ。その頃は各地戦争を繰り返し人間族、亜人族、魔族、世界中の生き物全てが戦いに明け暮れていた...」
レイ
「ちょっと待って!ゼトおばさん!」
クロエ
「なによー!まだ始まったばかりなのに!」
レイ
「世界中の生き物って争ってたのか?今みたいに仲良くなかったのか?」
ゼトおばさん
「そうじゃよ。今このキール村はわしら人間族その他に色んな種族がいるじゃろ?この店の隣にはノーム族の双子のおばさんの本屋もあるしその向かいには鉱石屋ドアーフ族の頑固オヤジのドルチじい、よろず屋リザードマン族のスティンゴなどおるわな。」
クロエ
「ってことは昔は人間は人間、同じ種族だけで住んでいたの?」
ゼトおばさん
「かつてはのぉ。」
ゼトおばさんは2人が静かになったのを確認し、お茶を一杯すすり本を読みながら話を進めた。
「世界中戦いで疲れ果てた頃、世界で8人の偉い人が協定を結んで戦いに終止符を打ったのじゃよ。その8人はそれら種族の王様。この本の表紙にも8つの丸いマークがあるじゃろう?」
そう言って本を一旦閉じ、表紙を見せるようにした。
レイ
「でもさ、ゼトおばさんこれ少しおかしいよ!」
クロエ
「どしてよ!」
レイ
「だって世界の種族はその8つどころかもっといるじゃねーか!その8つ以外の種族はどこいったんだよ!」
ゼトおばさん
「おっほっほっほ。仲間外れというわけじゃないんじゃよ。ほら、たとえばこの黄色のマークがあるじゃろ?元々同盟を結んでいた人間属、ドアーフ族、ノーム族のヒューマノイドたちの紋章なのじゃ。」
レイ
「仲間外れかと思ったよ。よかったな」
クロエとレイは笑った。
ゼトおばさんも笑い、2ページまで開いた。
ゼトおばさん
「その8人の王は世界同盟を結び平和が訪れたと思ったがその束の間、8人の王の中で唯一世界同盟を拒んだ王がおった。悪魔族の王様じゃ。その悪魔族は他種の魔物を召喚し魔人族、夢魔族、吸血族、ガイスト族を率いて7人の王に歯向かった。」
クロエ
「え?!世界を敵に回したの?」
ゼトおばさん
「そうするしかなかったのじゃ。悪魔族の王は共に生きることが出来ないと思ったのじゃよ。」
レイ
「どうゆうことだよ、それ!!」
ゼトおばさん
「お前さんたち、羊や牛、鳥を食べたことあるじゃろ?そやつらもそれと同じようなものさ。わしら人間や他の種族の肉や血を糧として生きてきたからのぉ。羊牛鳥も血や肉はあるがそやつらの舌には合わんらしい。」
クロエはクッキーをサクサク食べながらホットミルクを飲んだ。
レイ
「お前よくこんな話聞きながら食えるよな。」
クロエ
「だって美味しいんだもーん!」
ゼトおばさん
「おっほっほっほ。たくさんあるから食べな。」
レイ
「で、どうなったんだよ!」
ゼトおばさん
「悪魔族の王は永遠に途絶えることなく魔物を生み出せる魔法を作りあげた。勿論その代償は計り知れんがの。その魔法で自分の命と引き換えに唱え各国の王直轄の勇者率いるパーティを全滅させた。悪魔族の王は亡くなりその妻が王に代わり協定を結んだのじゃ。」
クロエ
「え、、、ってことは森や川、この大地に棲む魔物ってその王がやったことなの?」
ゼトおばさん
「あいにくその魔法は800年経った今でも唱えられ続けている。誰にも止めることが出来ないのさ。だから魔物と共存し生きていくことを8人の王が決めたのじゃ。」
「そしてその協定を機に多種族国家が出てきたのじゃよ。親睦を深める前提でな。じゃが全ての国とはいかん。他族を嫌う種族も多く存在するがこれだけは言っておくぞ」
ゼトおばさんは本を閉じ、2人にこう告げた
「差別はいかんよ。仲良くせねばな。これはワシの母親がよく口癖で言っとった言葉じゃよ。おっほっほ。」
クロエ レイ
「うん!」
ゼトおばさん
「今日はこのへんで終わろうかの。そろそろ約束の薬を取りにくる客が来るようじゃからな」
クロエ
「あっそうだゼトおばさん、いつもの薬あるかな?」
ゼトおばさん
「そこのカウンターの上に大きな瓶があるじゃろう。好きなだけ持っていきな。」
クロエはお礼をし慣れた手付きで持ってきた小さな皮の薬袋に入れた。
レイ
「なあ、ゼトおばさん。こんな地図壁にかかってたかー?」
ゼトおばさん
「それは昨日飾ったものじゃよ。旅人や冒険者がよく訪ねて道を聞かれるのじゃよ。なんやレイその地図が興味あるんかぇ?」
レイはイヒヒーと満面の笑みを浮かべて物欲しそうにした。
ゼトおばさんはため息一つ漏らし
「その下の空樽に丸まった羊皮紙があるじゃろ。持っていきな。」
レイ
「やったー!恩に切るよ!ゼトおばさん!」
クロエ
「ゼトおばさん!もう帰るけど薬代ここに置いておくね!また来るよ!」
ゼトおばさん
「何度も言っとるじゃろう。クリープリーフを沢山貰ったからお代は要らないよ。」
レイとクロエはお礼を言ってお店を出た。
坂を下ると日が暮れ海には夕日が反射してオレンジ色の光った道が出来ていた。
レイ
「もうこんな時間なのか。帰らなきゃな。」
クロエ
「そうだねぇ。あっそういえば何で地図が欲しかったの?」
レイ
「俺今は地図集めて部屋に飾ってるんだ。いつか冒険者になって勇者になるんだ。それが夢なんだよ!クロエもパーティ組んで冒険しようぜ!」
クロエ
「じゃあ私がリーダーね!」
レイ
「馬鹿野郎!リーダーは俺だ!!」
2人笑いながら坂を下りレイと別れ、村の入り口に着いた。
夕方でも人は多かった。
「!!」
何か視線を感じその方向に目を向けた。
「...気のせい?」
クロエは何もなかったように村から出て赤い家を目指した。