悪役令嬢には甘い言葉は通じない。
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広い広い、無駄に広い応接間でゆったりとした音楽が流れる中、私はもうそろそろ潮時かしらとチラリと向かいに座る男性の顔を見つめた。
得意げに話す男性の自慢話にはもう、うんざりしてきた頃である。
雰囲気作りが大事だとこの場を夕刻に用意したお父様の考えは、全く無意味で終わりそうね。
日は傾き、いつもなら夕食前の読書をしている時間だというのに。
私は膝元でずっと構えていた一口も口にしていない冷めた紅茶が入ったティーカップを、遠慮なくわざと音がなるように机に置いた。
「突然で申し訳ございませんが、縁談の話は全てなかったことにして頂きますね」
音楽を奏でていた奏者達が変な音を出して、この場の空気を乱す。
有無を言わせず私は立ち上がり、失礼しますとドレスの裾を持ち上げて一礼を決める。
この動作一つでも絵になると見る人全てが言うのだから、最後にそんな素敵と謳われる私の姿を見れたことに感謝しなさい。
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