月は笑う
*
「これから満月に向かって行く時の半月の日、お風呂にこのキャンドルを立てて。
お湯にピンクの薔薇の花びらを浮かべて入浴するとモテモテになるんだって。
そうそう、魔法のオイルも忘れないでね」
彼氏にふられたばかりの歩美に、綾子がプレゼントしてくれたのは、魔法のグッズだった。
「怪しいなあ」
「いいんじゃない?気休めだと思えば。
私もやるつもりなんだよね」
歩美は、こっそりため息をついた。
会社帰り、わざわざ呼び出したと思ったら、こんなことに付き合わされるなんて。
確かに、彼にふられた日も、その次の日も。たしかその次の日も。電話でえんえんと愚痴ってしまったけど。
だからといって、こんなオカルトじみた怪しげなものに手を出さなくても。
「でもねー、お店の人が言うにはモテる相手を選べないんだって」
綾子はかまわず話を続ける。
「嘘くさっ」
「いいじゃない。アロマテラピーだと思えば」
半信半疑どころか、100パーセント疑っている歩美に、綾子はピンクの薔薇の花束までプレゼントしてくれた。
別れ際に、
「ちなみに今日が半月の日だよ」
と言い残して。
一人暮らしのワンルームマンション。
ユニットバスには追い焚きなぞついているはずもなく、シャワーですませるのがほとんどだ。
綾子のプレゼントを、実行にうつすつもりなんてなかったのに。
入浴前にまず、バスタブの掃除から始めてしまっている。
薔薇の花びらをちぎって浮かべると、浴室内にいい香りがたちこめた。
彼氏の置き忘れていったライターで、キャンドルに火をともす。
バスタブの四隅に置くだけで浴室内の雰囲気がかわった。
ちらちらとする炎が、不思議な陰影を作り出す。
仕上げに、「魔法のオイル」を花びらの間にふりかけた。
服を脱ぎ捨てて、歩美はバスタブに身を沈めた。
キャンドルの炎を見つめていると、心が穏やかになっていくのを感じる。
「アロマテラピーだと思えば、悪くないね」
つぶやいて、両手でお湯をすくいあげる。指の間から、花びらがこぼれ落ちた。
お湯にピンクの薔薇の花びらを浮かべて入浴するとモテモテになるんだって。
そうそう、魔法のオイルも忘れないでね」
彼氏にふられたばかりの歩美に、綾子がプレゼントしてくれたのは、魔法のグッズだった。
「怪しいなあ」
「いいんじゃない?気休めだと思えば。
私もやるつもりなんだよね」
歩美は、こっそりため息をついた。
会社帰り、わざわざ呼び出したと思ったら、こんなことに付き合わされるなんて。
確かに、彼にふられた日も、その次の日も。たしかその次の日も。電話でえんえんと愚痴ってしまったけど。
だからといって、こんなオカルトじみた怪しげなものに手を出さなくても。
「でもねー、お店の人が言うにはモテる相手を選べないんだって」
綾子はかまわず話を続ける。
「嘘くさっ」
「いいじゃない。アロマテラピーだと思えば」
半信半疑どころか、100パーセント疑っている歩美に、綾子はピンクの薔薇の花束までプレゼントしてくれた。
別れ際に、
「ちなみに今日が半月の日だよ」
と言い残して。
一人暮らしのワンルームマンション。
ユニットバスには追い焚きなぞついているはずもなく、シャワーですませるのがほとんどだ。
綾子のプレゼントを、実行にうつすつもりなんてなかったのに。
入浴前にまず、バスタブの掃除から始めてしまっている。
薔薇の花びらをちぎって浮かべると、浴室内にいい香りがたちこめた。
彼氏の置き忘れていったライターで、キャンドルに火をともす。
バスタブの四隅に置くだけで浴室内の雰囲気がかわった。
ちらちらとする炎が、不思議な陰影を作り出す。
仕上げに、「魔法のオイル」を花びらの間にふりかけた。
服を脱ぎ捨てて、歩美はバスタブに身を沈めた。
キャンドルの炎を見つめていると、心が穏やかになっていくのを感じる。
「アロマテラピーだと思えば、悪くないね」
つぶやいて、両手でお湯をすくいあげる。指の間から、花びらがこぼれ落ちた。