月は笑う
結局、遅刻ぎりぎりに席に滑り込んだ歩美に、隣の席から同僚が声をかけてきた。
「今日の髪形、いいねぇ」
PCを起動させながら、歩美はため息をついた。
――山本に誉められてもなあ。
そんな歩美の気持ちにはもちろん気づくことなく、メールソフトを立ち上げるのと同時に、山本から能天気なメールが入る。
『今日のランチ一緒にどう?』
ランチなどと洒落て言ってみても、どうせ社員食堂なのだ。
山本からのメールは無視して、歩美は仕事に取り掛かった。
山本が髪形を誉めてきたり、ランチに誘ってきたり、今日は妙だ。
――これも魔術の効力?
まさかね、と打ち消してみても。
朝からこれだけ続くと、だんだん信じてみたいような気になってくる。
仕事の合間にこっそり綾子にメールをしてみると、興奮気味に返信があった。
『朝から五人にナンパされちゃったよ!しかも超かっこいい人ばかり!!やっぱり魔法がきいたんだね!』
また、ため息のネタが増えた。
ナンパされた――あれらをナンパと言えるかは別として――こちらはどれも微妙な相手だ。
綾子から、追加でメールが入る。
『魔法の効力は、満月の夜が終わったら消えちゃうから!モノにするならその間に頑張ってね!』
満月まで、約二週間。
あまり時間はない。
少しだけ、綾子の言葉を信じてみようと思った。
翌日も、歩美は早起きをしてカフェで朝食を食べた。
昨日とは違う店を選んだのは、昨日の店員に会いたくなかった、というわけではない。
どうせなら、いろいろな店を新規開拓してみようと思っただけだった。
会社から少し離れた、公園に面したカフェを今日は選択した。外の席は、気持ち良い。
脚を組み直して、運ばれてきた朝食に取り掛かろうとすると、
「ここ、よろしいですか?」
他に空席があるのに、相席をもとめられた。
「それはちょっと」
と言いかけて、歩美は言葉を飲み込んだ。
立っていたのは、テレビでよく見かける若手俳優だった。
尾上武史。人気、実力ともにここ数カ月めきめきと頭角をあらわしているのは、歩美も知っていた。
「今日の髪形、いいねぇ」
PCを起動させながら、歩美はため息をついた。
――山本に誉められてもなあ。
そんな歩美の気持ちにはもちろん気づくことなく、メールソフトを立ち上げるのと同時に、山本から能天気なメールが入る。
『今日のランチ一緒にどう?』
ランチなどと洒落て言ってみても、どうせ社員食堂なのだ。
山本からのメールは無視して、歩美は仕事に取り掛かった。
山本が髪形を誉めてきたり、ランチに誘ってきたり、今日は妙だ。
――これも魔術の効力?
まさかね、と打ち消してみても。
朝からこれだけ続くと、だんだん信じてみたいような気になってくる。
仕事の合間にこっそり綾子にメールをしてみると、興奮気味に返信があった。
『朝から五人にナンパされちゃったよ!しかも超かっこいい人ばかり!!やっぱり魔法がきいたんだね!』
また、ため息のネタが増えた。
ナンパされた――あれらをナンパと言えるかは別として――こちらはどれも微妙な相手だ。
綾子から、追加でメールが入る。
『魔法の効力は、満月の夜が終わったら消えちゃうから!モノにするならその間に頑張ってね!』
満月まで、約二週間。
あまり時間はない。
少しだけ、綾子の言葉を信じてみようと思った。
翌日も、歩美は早起きをしてカフェで朝食を食べた。
昨日とは違う店を選んだのは、昨日の店員に会いたくなかった、というわけではない。
どうせなら、いろいろな店を新規開拓してみようと思っただけだった。
会社から少し離れた、公園に面したカフェを今日は選択した。外の席は、気持ち良い。
脚を組み直して、運ばれてきた朝食に取り掛かろうとすると、
「ここ、よろしいですか?」
他に空席があるのに、相席をもとめられた。
「それはちょっと」
と言いかけて、歩美は言葉を飲み込んだ。
立っていたのは、テレビでよく見かける若手俳優だった。
尾上武史。人気、実力ともにここ数カ月めきめきと頭角をあらわしているのは、歩美も知っていた。