月は笑う
震える手で、マウスをクリックする。
受信メールの一通目が開かれた。
『こっちの誘いは無視しておいて、あんな奴の家から出てくるなんて。許さないからな』
クリック。
『こんなに人を好きになったのは初めてなのに』
クリック。
『プレゼントした香水は気に入ってくれた?きっと似合うと思うよ』
クリック。
『今度の週末、会いたいな。待ち合わせはどこにする?』
クリックする手が止まった。
こんなメールがくるなんて。
差出人を見ても、心当たりはない。
胃がきゅうっと締め付けられる。
こんな思いをしなきゃならないなんて。
何でこんな目に合わなければいけないの。
仕事が手につかないまま、なんとか定時を迎えることができた。
さっそく綾子に電話をする。
「あのね……」
気味の悪いメッセージが届いたこと。
大量にメールが届いたことを話すと、電話の向こうで綾子は深刻な声を出した。
「ストーカーってやつ?」
「どうしよう、こんなことになるなんて」
今にも泣き出しそうな歩美の声に何かを感じたのだろう。
着替えを持って泊まりに来てくれると綾子は約束してくれた。
帰り道、一人で歩くのにも歩美は恐怖心を覚えていた。
これが普段なら、たちの悪いジョークだと流すこともできたかもしれない。
でも、今は違う。
きっと、メールを送って来ている人間は尋常ではない精神状態のはず。
何をされるかわからない。
何度も後ろをふりかえってしまう。すれ違う人が、眉をひそめるほどに何度も。
ポストを確認するのも、震える指がいうことを聞いてくれず、ダイヤル式のロックを合わせるのにも一苦労だった。
今日は不在票が入っていないのを確認して、少しだけほっとする。
歩美が、部屋に入るのを待ちかねていたかのようにチャイムが鳴る。
おそるおそるインターフォンを確認すると、綾子だった。
受信メールの一通目が開かれた。
『こっちの誘いは無視しておいて、あんな奴の家から出てくるなんて。許さないからな』
クリック。
『こんなに人を好きになったのは初めてなのに』
クリック。
『プレゼントした香水は気に入ってくれた?きっと似合うと思うよ』
クリック。
『今度の週末、会いたいな。待ち合わせはどこにする?』
クリックする手が止まった。
こんなメールがくるなんて。
差出人を見ても、心当たりはない。
胃がきゅうっと締め付けられる。
こんな思いをしなきゃならないなんて。
何でこんな目に合わなければいけないの。
仕事が手につかないまま、なんとか定時を迎えることができた。
さっそく綾子に電話をする。
「あのね……」
気味の悪いメッセージが届いたこと。
大量にメールが届いたことを話すと、電話の向こうで綾子は深刻な声を出した。
「ストーカーってやつ?」
「どうしよう、こんなことになるなんて」
今にも泣き出しそうな歩美の声に何かを感じたのだろう。
着替えを持って泊まりに来てくれると綾子は約束してくれた。
帰り道、一人で歩くのにも歩美は恐怖心を覚えていた。
これが普段なら、たちの悪いジョークだと流すこともできたかもしれない。
でも、今は違う。
きっと、メールを送って来ている人間は尋常ではない精神状態のはず。
何をされるかわからない。
何度も後ろをふりかえってしまう。すれ違う人が、眉をひそめるほどに何度も。
ポストを確認するのも、震える指がいうことを聞いてくれず、ダイヤル式のロックを合わせるのにも一苦労だった。
今日は不在票が入っていないのを確認して、少しだけほっとする。
歩美が、部屋に入るのを待ちかねていたかのようにチャイムが鳴る。
おそるおそるインターフォンを確認すると、綾子だった。