メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
朝、帰りの電車で寝てしまった私を暖人は乗り換えの駅で起こしてくれた。彼はそのままその電車で帰れるのに私の手を引いて一緒に降りてくれて、私が乗る電車に乗ってくれた。繋いだ手は汗ばんでいて、もしかして私が起きる前から繋いでくれていたのだろうか、なんて思ってしまった。

家の最寄駅に到着すると暖人は家まで送ると言ってくれた。でも電車に乗る前、家に『今から帰る。』と連絡した時、ちょうどお母さんがパンを買いに駅前の美味しいパン屋さんに行くから合流して一緒に行こうと約束していたので、彼の申し出はお断りすることになった。

改札前まで見送ってくれた暖人とは正直別れ難かった。もし今日バイトがなかったら、そしてもし彼も時間があるのなら、このまま寝ないで彼と時間を過ごしたいな、なんて思ってしまっていた。

お互い無言のまま改札付近でしばらく向かい合っているとお母さんから『パン屋さんに着いたよ。』とメッセージが来たので暖人と別れて改札を出た。

振り返って手を振ると彼は手を振り返してはくれなかったけれど、今までとは違う何かが込められたような眼差しでこちらを見てきた。思わず立ち止まってしまいそうになりながらも私は前に向き直りパン屋さんに向かった。
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