メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
20時に閉店し、20時半前には近くの駐車場に停めている店長の車の前にいた。店長はキャンプが趣味らしくキャンプ道具が積めそうな大きな車だった。ふんわりした雰囲気の店長がこんなに大きな車を運転しているなんて何だかギャップを感じた。

「私、どこに座れば?」

「ここに決まってるでしょ?どうぞ、お嬢様、いや、お姫様。」

店長はくすっと笑って助手席のドアを開けてくれた。

「ありがとうございます。」

そう言って乗り込むと店長はドアを閉めてくれ、運転席に乗り込む。シートベルトをしめようとしている私を手伝ってくれて、手が触れた。

「あ、ごめん!」

店長は慌てて私から離れた。

「ううん・・・。」

その反応に驚く。どうしたんだろう。仕事中に手が触れたことだってあるのに。


*****

「こんな風に夜景が綺麗なお店来るの初めて。なんだか大人になった気分。」

オフィスビルの最上階にあるレストラン。窓から見える周辺の高層ビルはそれぞれがいくつもの美しい光を放っていた。けれどあの窓のひとつひとつの中では大人の人達がノルマだとか予算だとか期限だとか───その他今の私には想像できないものと戦っているのだろう。

他のビルから見たらこのビルもあんな風に光っていて、遠くから見たら四角い宝石がたくさんあるみたいなんだろう。暖人にも見せたいな・・・なんて思ってしまう。でも彼は大人だから、こういう風景も特別珍しくは感じないのだろうか。

───それにしてもこんなお店に来るなんて思わなかったからびっくりしたな。一人で入りにくいお店、というから女性客ばかりの可愛らしいカフェとかかと思ってた。

「お父さん以外の助手席に乗るのも初めてだったんだよね。杏花ちゃんの『初めて』2つももらえたなんて光栄だな。」

「どうしたんですか?店長。なんか今日・・・。」

様子がおかしい。なんかいつもより固い感じかな?と思ったらふわふわしている感じもするし。

「・・・もう店も閉めたし、名前で呼んでもらえたら嬉しいな。」

店長は恥ずかしそうに私から目を逸らして言った。
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