メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・そうなんだよね。バレンタインとか嬉しいけど正直困って・・・いつも姉と妹にあげてたよ。」

「今年のバレンタインもお客様にたくさんもらってて、私達女性陣にくれましたよね。人気者は大変だ。」

「杏花ちゃんも義理チョコならぬ、義理パンくれたよね、手作りのポンデケージョ。もちもちで美味しかったよ。」

「女性陣にはフォンダンショコラにしたけど、店長と竹中さんは甘いもの苦手だからあれにしました。」

店長は『お気遣い嬉しかったよ。』と微笑んでから窓の外に目をやった。

「・・・数をたくさんもらうより、好きな人からの一つをもらいたいよね。義理じゃない、俺だけの特別なやつ。好きな人にもらえるのなら、たとえ喉が焼けるくらい甘いワンホールケーキでも喜んで全部食べるよ。」

「すごい、愛ですね。」

「・・・受け取ってくれるといいんだけどな、俺の愛を。」

店長はそう言ってこちらを向き直すと眼差しを強くした。誰か受け取ってほしい人がいるのかもしれない。

「きっと受け取ってくれますよ。高園さん、すごく素敵だもの。」

そう言うと店長は切ない表情になった。

「・・・もし受け取ってもらえなかったら、やけ酒付き合ってくれる?」

「はい。」

恋をしている人の表情はとても美しい。私もこんな顔が出来ているのだろうか。

店長はその人のことをすごく好きなんだな、と思った。彼の恋が実りますように、この時は心からそう願っていた。
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