メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「そう。まるで楽器が音楽を奏でるみたいに、時に楽しく時に悲しく時間を刻むんです。それで、そこにいる人達だけの物語が出来る・・・って意味わかんないよね。」

彼女は夢中になって語っている自分に気がついたのか恥ずかしそうに俯いた。

「や、嬉しいけど。」

俺の時計をそんな風に思ってくれるなんて。なんだかくすぐったかった。最近の中学生はなかなか(あなど)れない。

「本当?なら良かった。」

彼女は顔を上げてまた『へへっ。』と笑った。思わず直視してしまったその笑顔に心を優しく撫でられたように感じた。

「オーダーメイドはやらないけど、電話の礼に好きなやつ持ってけば。や、気に入ったやつがあればだけど。」

本当は電話と、今くれた言葉への礼だった。こんなに綺麗な感想をもらったのは2度目のことだった。彼女の時間を俺の時計が刻んでくれたら、そう思った。

「え、いいの?」

「ここのマーケットに出すのは手頃な値段のやつばかりだし、気にしないで選べ。」

「えー迷うなぁ。素敵なのばかりだし。社会人になるから新しい腕時計がほしいけど、これだと職場ではつけられないよね。でも、すごくかわいい。」

彼女は白い腕時計を見ながら言う。文字盤が雪うさぎの形になっており赤い目と緑の耳がついていて、ベルトは少しもふもふした生地を使っている、という作品だ。

───ん?今なんて?

「中卒で働くんだ。えらいな。」

そう言うと、彼女はさらりと信じられない言葉を返してきた。
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