メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
どの料理も見た目が芸術作品のように美しく、ひとつひとつの素材にこだわり手間を惜しまず作り上げられているようで、本当に美味しかった。社会人になったらこういうお料理を口にする機会も増えるのだろう。

食事が終わり、エレベーターで1階に降りて外のデッキに出てみる。今朝暖人といる時は寒さを感じなかったのに、駅で彼と別れた途端急に寒くて、バイトに行く時には暖かい上着を引っ張り出した。

冷たい空気は暖かい空気より澄んでいるように感じるのは何故だろう。周りを見ても上を見上げてもたくさんの光が溢れている。人工的な都会の光。思わず『綺麗・・・。」と声が漏れる。

「上から見るのもいいけど、下から見上げるのも迫力あっていいよね。あっちに噴水があってライトアップされてるんだ。見に行こうよ。」


噴水もとても綺麗だった。カラフルではなく微妙に色が違う洗練されたイルミネーション。その光に照らされて水は表情を変える。それに目もくれず通り過ぎて行く人達は恐らくこの周辺で働いていて見慣れているのだろう。待ち合わせをしていると思われる人達もいる。

「今日ここに連れてきてくれてありがとうございました。ごちそうさまでした。お礼なのに私の方が楽しんじゃった。」

お辞儀をして顔を上げると店長の真剣な眼差しがそこにあった。彼はいつも人の目をじっと見つめて話す。

「杏花ちゃんも3月には大学卒業して、店辞めちゃうんだね。寂しいな。」

「まだ数ヶ月あるし、私がいなくなっても新しいバイトさんが来ますから。」

そう返した私に店長は苦しげな声で言った。

「・・・杏花ちゃんじゃないと駄目なんだ。」

「え?」

驚いて店長の方を見ると、周りの夜景に負けないくらい美しく輝く瞳で私を見ていた。寒空の下、彼の視線は熱かった。噴水の水の音がやけに大きく聞こえる。

「俺は・・・杏花ちゃんと離れたくない。」

「・・・え、あ、社会人になっても遊びに来ますよ。元々私はあのお店に通っていたんだし。」

切羽詰まった様子の店長に慌ててそう返すと彼はこちらに一歩近づいた。
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