メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
暖人のこと以外は考えられなくて、頭がぼうっとしていた。今夜のラグジュアリーなレストラン、美しい夜景・・・ドラマみたいに出来すぎたシチュエーションでの店長の甘い告白は夢だったんじゃないか、と思った。口どけのよい生チョコレートのように夜景にとけてしまったのではないか。むしろそうであってほしいと心の奥で願っていたのかもしれない。

「杏花ちゃん。」

安心しきっていた私は店長の声が通常ではあり得ないくらい近くで聞こえることに気がつかずに、その声の方を向いてしまった。

「・・・!?!?」

店長の顔がすぐ目の前にあった。唇が触れる寸前で体を後ろに仰け反らし、窓に後頭部をぶつけた。

「ご!ごめん!!つい・・・。」

「・・・。」

店長のいきなりの行動にあまりに驚いて言葉が出てこない。

「ごめん。ライバルがいるからといって焦り過ぎたら嫌われちゃうから、慎重にいこうと思ってたのに・・・もう嫌いになっちゃった?」

「嫌いにはなってないけど・・・変な感じ。」

「変なって?」

「お兄ちゃんが急に男の人になった・・・みたいな。」

「ははっ俺は最初から男だよ。でもそういう風に思ってもらえるようになったなら、嬉しいかな。」

店長は柔らかく微笑んでくれたけれど、私は微笑み返せなかった。それでも店長は優しい眼差しのままだった。
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