メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「へえぇ・・・。」

───この学生証偽造じゃないよな?

「偽造じゃないよ。」

「え!?心読める系女子!?」

なんだか不思議な感じのするやつだし、『実は私、人の心が読めるんだ。』なんて言われても納得してしまいそうだ。むしろそちらの方が『22歳』と言われるより、ずっと現実味がある。

「学生証見せると『偽造じゃないの?』ってよく言われるの。」

自虐的な感じでもネタっぽい感じでもなく淡々と言う。どうやら彼女が22歳というのは事実のようだ。読心術の使い手ではなく、時空を歪めることが出来るのかもしれない。

「じゃ、年齢的には酒も飲めるってこと?絶対飲めなそうだけど。」

「お酒、大好き。」

まるで子供がチョコレートやアイスクリームが大好き、とでも言うような無邪気な表情で言われて違和感しかない。

「いやー、って言ってもアルコール3%のジュースみたいなサワーとかだろ。」

「日本酒が好きで。大学やバイトの飲み会で飲んでると皆どんどんダウンしちゃうから、最後は一人になっちゃって。」

嘘だろ。でもこいつが酒を飲むところを見てみたいと思った。酒の強さなら俺も自信がある。気がついたら俺は生まれて初めて自分から人を誘っていた。

「もうすぐ5時でこのマーケット終わるけど、もし時間あったら飲みに行かないか?」

「え、うん。行く。」

『え』『うん』『行く』その間の句読点ごとに彼女はどんどん笑顔になった。まるでつぼみだった花が満開に開くように。
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