メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「お願い。ハルのその鋭い瞳に(つらぬ)かれたいの。」

言われたこちらが貫かれそうなくらいものすごい目力で見てくる。『媚びる』とか『あざとい』とかそういう言葉とは無縁の、侵略的な懇願だ。

「・・・それでお前は気が済むんだな?」

「ええ。もういい大人だから、自分のことはよくわかってる。」

玲美はベッドの下にニットを脱ぎ捨てると俺の上にまたがってきた。顔が近づいてくる。居酒屋で彼女の顔にあったしおらしさは跡形もなく、まるでメヒョウのような獲物を狙う目になっていて、それがとても彼女に似合って美しかった。

俺の心の中の猛獣は檻から静かに出て、ぽつんと座っていた。特に興奮している様子もなく、投げやりというか無気力な感じだった。そう言えば自分はよくオオカミに似ていると言われるなと思い出した。

───玲美がそう言うなら、いいんじゃねぇか?いい大人なんだからそういう割り切った夜もありなんじゃねぇの?クリスマスイブなんてそういうことすんのにおあつらえ向きじゃねぇか。

悪魔も虚ろな目で力なく呟く。

確かにイブに体を重ねるカップルが愛し合っている二人ではない割合は結構高いのではないかと思う。

───これでいいんだ。これで俺もあいつを吹っ切れるだろう。玲美は俺を、俺は杏花を吹っ切るためにこの夜を過ごす。

俺は玲美の体に手を伸ばした。聖夜、猛獣同士───メヒョウとオオカミ───のぶつかり合いが始まる。明日の朝になったら、『本気の恋が吹っ切れた新しい日々』というクリスマスプレゼントが俺達の枕元に置いてあるのだろうか。
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