メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
しばらく水道で冷やしてくれてから店長はスタッフルームにある救急箱を取り出し、塗り薬を塗ってからガーゼで保護してくれた。処置が終わると救急箱を棚にしまい、座敷に座っている私の前に戻ってきた。

「忙しい時期が終わったら、バイト辞めます。」

決心が鈍る前に言った。

「辞めたいの?それともミスしたから辞めなくちゃいけないって思ってるの?」

「えーと・・・。」

このお店の雰囲気も、優しいお客さん達も、一緒に働く家族みたいな人達も好きだった。本当は会社の研修が始まるギリギリまでここで働きたかった。

「杏花ちゃんずっと様子がおかしいから、彼と何かあったんだろうなって思ってた。卒論ももう提出したんでしょ?暇になったらますます色々考えちゃうんじゃない?バイトしてた方が気が紛れると思うよ。他でバイトするならここで働いた方がいい。この店でなら俺がいつでもフォロー出来る。杏花ちゃんのこと守れるから。」

「でも・・・。」

「杏花ちゃんには俯いたまま辞めてほしくないんだ。ちゃんと晴々した気持ちで堂々と前を向いてここを卒業して欲しいんだよ。杏花ちゃんに個人的な気持ちがあるからじゃない。この店で働いてきた仲間としてそう思ってるんだ。今までしっかり働いてきてくれたのに、こんなことで辞めてしまったら、この店のこと思い出す度辛くなっちゃうでしょ?」

「店長・・・。」

声が震えてしまう。店長はこちらに寄ってきてそんな私を抱きしめた。
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