メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「は、暖人も、初詣?」

「ああ。家から近いのに初詣来るの初めてだけどな。愛媛の実家から戻った帰りだからついでに。あ、みかんいるか?食べ飽きてたりしなかったらだけど。」

「みかん大好き。ありがとう。頂くね。」

そう返してしまってから、
暖人とのことを思い出にしようと思っているのだからもらわない方が良いのではと気づいたが、今更断るわけにもいかなかった。ビニール袋に入れて渡してくれたみかんをリュックにしまって、傍らに置いておいた甘酒の紙コップを手にした。

「甘酒って苦手なやつは苦手だよな。」

「そうだよね。私は『酒』ってつくものは全部好き。子供の頃は甘酒って『酒』ってつくのに子供でも飲めるから不思議だったな。」

「ああ、俺も同じこと思ってた。甘酒飲むとなんだか大人になった気分だった。」

「そう言えば結局あの日以来一緒に飲んでないね。暖人、私を潰すって言ってたよね?」

口に出してしまってからハッとする。まずい、これじゃ、今後飲みに行きたいと言っているみたいだ。話題を変えよう、何か当たり障りのない世間話はないだろうか。年末年始で面白かった番組?実家のお雑煮には何を入れるか?お年玉は何歳までもらえるか?脳をフル稼働して話題を探していると、暖人が神妙な顔つきで返してきた。

「・・・もし本当に俺がお前を潰しちゃったら嫌だったから。」

「え?どうして?」

「!いやっ、それは!・・・そ、その、お前は体も小さいし、もし潰れたら心配だろ。」

「そういうもの?」

「そういうもんだよ。」

「・・・そうなんだ。あの、いつも来ない初詣に来たってことは今年は何かお願いしたいことがあったの?」

「・・・。」

「あっ・・・ご、ごめんね!そんなの聞いちゃいけないに決まってるよね。」

固くなった暖人の表情を見て思わず手で口を抑える私をちらりと見てから彼は何かを考える素振りをし、私の隣にゆっくりと腰を下ろした。隣に座ったことは何度もあるのに胸がにわかにざわめき出す。
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